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電源コードを切断する方法:ワイヤレス・パワーはプライム・タイムを迎える準備ができています

電源コードを切断する方法:ワイヤレス・パワーはプライム・タイムを迎える準備ができています

6 21, 2017

このブログは、もともとHow2Powerのウエブサイトで公開されました。eGaN技術とワイヤレス・パワーに対するEPCのGaNソリューションについての詳細は、このブログをご覧ください。

無線充電は新しい話題ではありません ―― それは、かなり長い間、話題になっています。残念ながら、消費者が広く受け入れているようにはみえません。しかし、送信コイルの設計に対する最近開発された革新的なアプローチによって、ワイヤレス・パワーが広く採用される準備が整いました。

競合する標準規格

業界の2つの標準化団体が、ワイヤレス・パワーを消費者に届けることを主導しています。 無線充電を推進する最初の規格グループは、誘導充電技術に基づくQi規格を決めたワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)です。2つ目の団体はAirFuelアライアンスで、そのソリューションとして高共鳴磁界を利用しています。ワイヤレス・パワーを日常的に、どこでも利用できるようにする技術は、共振磁気技術です。

誘導充電は、送信器と受信器との間の正確な位置合わせが必要で、一度に1台の受電器にしか電力を供給できません。この技術は、歯ブラシを充電するために採用されている技術なので、現在、消費者に最も知られています。この技術の重大な制限は、電源を収容する送信器(受け台)に対して受電器(例えば歯ブラシ)を正確に配置する必要があり、一度に1つの受電器にしか電力を供給できないことです。

これとは対照的に、AirFuel規格の技術では、送信コイルの表面上のどこに受信器を置いても電力を供給できます。消費者にとってのこの明らかな利点に加えて、磁気共振を使うと、複数の機器(受信器)に同時に電力を供給(または充電)できます。

いつアプリケーションが普及するのでしょうか?

AirFuel対応の携帯電話やコンピュータはどこにありますか? それらは現在進行中です。残念ながら、現時点では、ゆっくりと。ただし、エンド・ユーザーの受電器の導入は、勢いを増しており、より多くのアプリケーションが進行中です。

例えば、米デルは最近、無線充電機能を備えた2-in-1 Latitudeコンピュータを発表しました [1](図1参照)。さらに、12種以上の高共鳴充電製品がAirFuelから認証されています[2]。しかし、なぜ、この一見優れた規格の採用が非常に遅いのでしょうか?

図1. 米デルのコンピュータ2-in-1 Latitudeは、AirFuel規格に基づく高共鳴磁気送電ユニット(PTU)を使って無線で充電されます。
図1. 米デルのコンピュータ2-in-1 Latitudeは、AirFuel規格に基づく高共鳴磁気送電ユニット(PTU)を使って無線で充電されます。

複数の機器に同時に電力を供給し、受信器の配置を心配せずに、非常に広い領域の送信面に直接配置できることが理想です。しかし、これを実現することが驚くほど難しいことが分かりました。この問題は、2つの主な課題に分けることができます。すなわち、(1)複数の機器に同時に電力を供給することと、(2)充電領域が広くなるほど、送信アンテナを大きくする必要があることです。

共振磁気アンテナのサイズが大きくなると、その磁界が広がり、範囲内の他の電子機器との干渉が大きくなります(図2参照)。加えて、アンテナが大きくなると、オフレゾナンス・シフトの影響を受けやすくなり、送信効率と送信システムのコストに大きな影響を与えます。

図2.共振磁気アンテナのサイズが大きくなると、磁界も広くなるため、範囲内で他の電子機器と干渉する可能性が高くなります
図2.共振磁気アンテナのサイズが大きくなると、磁界も広くなるため、範囲内で他の電子機器と干渉する可能性が高くなります。

問題を解決する

複数のデバイスを同時に充電するという課題番号1の解決策は、AirFuel規格では、デバイス(受信器)とソース(送信器)のペアの組み合わせを事前に定義することによって対応しています。定義された組み合わせの例は、定格が16 Wのクラス3送信器と、いずれも定格6.5 Wのカテゴリー3の受信器2個の組み合わせ、または定格13 Wのカテゴリー4の受信器との組み合わせです。これによって、アンプの能力の範囲内でシステムに課せられた最大電力需要への影響は軽減されますが、残念ながら、長期にわたる消費者エコシステムの拡大には対応していません。その代わり、電圧駆動能力範囲を向上させたアンプ技術が必要です。

ワイヤレス・パワーのソリューションで支配的なアンプ構成が2種類登場してきました。ゼロ電圧スイッチング(ZVS)のD級とE級パワー・アンプです。ZVSのD級アンプは、出力インピーダンスが非常に低いため、アンテナの負荷変動の影響を受けにくく、出力電圧の駆動範囲を広げるために、簡単かつコスト効率高くスケーリングすることができます。E級アンプは、設計は簡単ですが、出力電圧の駆動範囲を拡大するために、より高価で複雑なEMI(電磁干渉)フィルタを組み合わせたより複雑で高価な回路が必要になります。いずれの回路構成も、窒化ガリウム(GaN)・トランジスタまたはICを使うと、より高効率になり、現在では商用製品で使われています。

より広い領域をカバーできるアンテナを備えるという課題2の解決策を実現することは、非常に困難です。現在、市販の送電ユニット(PTU)の面積は1平方フィート(0.01平方メートル)以下です。この課題の核心は、大きなアンテナは共振状態を保つことが難しく、アンテナ自体のX方向の寸法またはY方向の寸法よりも長い距離でも、電子機器に干渉する可能性があることです。しかし最近、EPCはワイヤレス・パワー伝送システムにおけるブレークスルーを開発しました。このブレークスルーは、革新的なアンテナ設計とeGaN FETベースの標準的なZVSのD級パワー・アンプの組み合わせです。この革新的な大面積アンテナのコイルは、AirFuel規格の下での均一な磁界要件に対応し、実質的にあらゆる形状の小さな表面積または大きな表面積をカバーするためにスケーラブルです。

このイノベーションの鍵は、電力伝送に使われる磁界の距離を制限する設計でした。従来のワイヤレス・パワー・システムでは、コイルの領域が広くなると、磁界も広くなり、虚部のインピーダンス・シフトの影響を受けやすくなります。ある点で、より広い磁界は、虚部のインピーダンスの変動の影響を軽減するために高コストになり、EMI規格に合格することが難しくなり、比吸収率(SAR:specific absorption ratio)に関連する安全性の懸念に対処しなければならないなど、さまざまな理由で望ましくなくなります。このコイルのユニークな構造によって、さまざまなワイヤレス・パワー機器とその近く、またはその上に置かれた他の物体との間の干渉をさらに低減できます。

このコイルは、今日利用可能な標準的な工程を使って製造できるため、コストを低く抑えられます。このアンテナの概念は、ワイヤレス・パワー機器、特に大電力、大面積、またはその両方が必要な機器でも使えます。コイルのインピーダンスが低減されているため、無負荷時と機器内の全電力と間の安定化していない電圧変動を低く抑えることに適しています。

Tこの新しいアンテナは、壁、床、カウンタの表面など、あらゆる場所に設置できます。この伝送システムは、20インチ×40インチ(0.5 m×1 m)の卓上の一部としてIEEE APEC 2017の展示会で初めて展示されました。卓上灯、米アマゾンの小型スマート・スピーカEcho Dot、ノート・パソコン、コンピュータのモニター、スマートフォンなどのさまざまな一般的な製品に同時に給電できます(図3と図4を参照)。

図3.この卓上のどの機器にも電源コードの必要がありません。
図3.この卓上のどの機器にも電源コードの必要がありません。

この卓上は、無線充電にとどまらず、継続的に無線で機器に電力供給できます。卓上デモにおいて、コンピュータ・モニター、アマゾンのEcho、卓上灯は電池を備えておらず、卓上の表面の下に配置された送信器から直接給電されました。

図4. 小型で安価なアンテナは、無線で給電されるさまざまな負荷の受電器として使われます。ここに示されているものは、台湾のASUSの21インチのモニター(a)、アマゾンのEcho Dot(b)、米グーグルのCortana(c)、卓上灯(d)です。
図4. 小型で安価なアンテナは、無線で給電されるさまざまな負荷の受電器として使われます。ここに示されているものは、台湾のASUSの21インチのモニター(a)、アマゾンのEcho Dot(b)、米グーグルのCortana(c)、卓上灯(d)です。

この卓上に加えて、柔軟な設計の送信コイルを、経済的に壁に組み込むことができます。その壁の表面に、物理的に「プラグイン」することなく、薄型テレビ、スピーカ、壁取り付け用燭台を設置することができます。同様に、キッチンのカウンタ上では、水と電気が接触する危険なしにブレンダ、トースタ、コーヒー・メーカーに電力を供給するためのプラットフォームになります。会議室のテーブルは、参加者のノート・パソコンに電力供給し、近い将来、会議のプレゼンテーションを強化するために使われる拡張現実(AR)システムに電力を供給することができるようになります。

プライム・タイムに向けたワイヤレス・パワーが現実に

私たちは、電源コードを切断する準備ができており、家庭やオフィスに真に無線で給電し、見苦しく、不便で、時には危険な電源コードを排除する完全なワイヤレス・パワー伝送システムを利用でるようになります。この新たに開発した送信アンテナ技術が、待望のワイヤレス・パワー時代への扉を開き、非常に嫌われていた電源コードに別れを告げられます!

参考文献
1. “This Dell 2-in-1 laptop can wirelessly charge through its keyboard” by Nick Statt, The Verge, January 6, 2017.
2. AirFuell Alliance’s list of Certified Products.