GaNの話シリコンを粉砕するために捧げたブログ
eGaN技術がクルマに来る

eGaN技術がクルマに来る

5 01, 2018

この記事は、もともとBodoのPower Systemsのウエブサイトに2018年5月に掲載されました。自動車自動車向けeGaN技術とEPCのGaNソリューションに関する詳細をご覧ください。

自動車技術は、自動運転車の出現と駆動力としての電気推進によってルネッサンス期に入りました。情報サービスの英IHSマークイットは、1200万台の自動車が2035年までに自動運転になるとみており、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(情報プラットフォームのマークラインズ)によれば、3200万台の自動車が電気推進を備えると推定しています。この2つのトレンドは、パワー半導体需要の大きな伸びにつながります。これは、シリコンが電力変換の世界でその性能限界に達しているその性能限界に達しているその性能限界に達しているそのときにも起こっており、シリコン基板(GaNオン・シリコン)上に形成した窒化ガリウムをベースとするパワー・デバイスに巨大な新しい市場を拓くことになります。

クルマに、なぜGaN?

GaNパワー・デバイスが量産されている過去8年間にわたって、成熟したシリコンMOSFETを超えるGaNの大きな利点を生かしたいくつかの大規模なアプリケーションが出てきています。すなわち、LiDAR((光による検出と距離の測定)、レーダー、48 V入力、12 V出力のDC-DC 変換、高輝度ヘッドライト、電気自動車の充電基板などです。

GaNトランジスタとICのどこにでもある最初のアプリケーションの1つはLiDARで、米ベロダインLiDARのデイビット・ホール氏のクリエイティブな考えによって推進されました。この考えは、レーザー・パルスを非常に高速にトリガーすることで、放出された光子の光の飛行時間を正確に測定することができ、数100 mの距離で数cm以内の距離を迅速に測定することが可能になりました。ベロダインは、回転軸に平行に積み重ねられた複数の固体レーザーを備えた回転ディスクを使って、図1に示すような高速で正確なデジタル・ポイント・クラウドを生成することができました。誰もが非常に驚いたことに、カメラとレーダー・センサーを組み合わせたこの検出技術は、プロトタイプの自動運転車を実現するために多くの事例で採用されました。

LiDAR sensors using GaN FETs create a fast and accurate digital point cloud
図1:GaN FETを使ったLiDARセンサーは、自動運転車が周囲の構造や対象物を認識するために使われる高速で正確なデジタル・ポイント・クラウドを生成します。

EPCのGaN FETとICは、FETが非常に短いパルス幅で大電流パルスを生成するようにトリガーすることができるので、レーザーの照射に使われる合理的な選択肢でした(図2参照)。短いパルス幅は、より高い分解能につながり、より大きなパルス電流は、LiDARシステムがより遠くを見ることを可能にします。非常に小さいサイズと共に、この2つの特徴によって、eGaN FETがLiDARだけでなく、レーダーや超音波センサー向けの理想的なデバイスになります。

An EPC2202 AEC-Q101 qualified FET is used to generate a 1.8 nano-second pulse at a peak current of 26 A
図2:AEC-Q101認定のFETである EPC2202 は、ピーク電流26 Aで1.8 nsのパルスを生成するために使います。光受信器のパルス信号が青色の線です。

LiDARは、トレンドの始まりに過ぎませんでした。クルマのナビゲーションと制御のための入力を提供するために使われるセンサー・アレイと共に、これらのセンサーの入力を統合し、その意味を解釈し、自己駆動アクチュエータに送るコマンドを決定する高性能グラフィックス・プロセッサの開発という新しい市場があります。高速処理が重要な性能であり、米モービルアイ(現在は米インテル傘下)や米エヌビディアなどの企業は、超高速マルチコア・プロセッサを製品化しています。これらのプロセッサは、一般道や高速道路を安全にナビゲーションするために、複数のレーダー、LiDAR、カメラ、超音波センサーからのすべての入力を十分に迅速に収集し、解釈し、統合し、理解することができます。

48 V入力、12 V出力の電力分配システムが必要

これらの高性能プロセッサの対価は、非常に消費電力が大きく伝統的な自動車の12 V系の電気的な分配バスに余計に負担をかけることです。自動車用LiDARシステムに必要なこれらのプロセッサに大電力レベルを提供するためのソリューションは、高性能ゲーム・システム、高性能サーバー、人工知能システム、さらには暗号化マイニングなどで動作するように応用しているものと同じソリューションであることが分かります。すなわち、電流レベルと配線サイズを1/4に減らすことができる48 V系の分配バスを実装することです。オーバーシュートやさまざまな不具合条件を考慮すると、バス上の電圧は60 V以下に抑えられ、追加の(そして高価な)安全対策を必要としないため、48 Vがこれらのアプリケーションにとっても最も高い現実的な電圧です。

48 Vの利点は、最新のクルマに搭載する電力を必要とする新たな電気駆動の機能や特徴のすべてを考慮すると、さらに顕著になります。例えば:

  • アイドリング・ストップ
  • 電動ステアリング
  • 電動サスペンション
  • 電動ターボ・チャージャ
  • インバータ・エアコン

これらの新しい機能や特徴によって、48 V入力、12 V出力のDC-DCコンバータの新しい大市場が開拓されています。従来からのシステムとバッテリー・パックを動作させるには、48 Vで電力を生成し、12 Vに変換すればよいわけです。

GaN FETとICの優れた性能

図3に示すように、GaN FETとICは、48 V入力から12 V出力を得る最も高効率な方法です。GaNデバイスは、あり、何倍も高速なので [1]、より小型で低コストの周辺部品が使え、より高効率につながります。EPCのeGaN FETは、量産価格ならシリコンと同程度です[2]。現在、AEC-Q101の品質試験に合格したことで、自動車業界の幅広い採用につながる次のステップに踏み出しています。

EPC9130 - 700 W 48 V - 12 V DC-DC converter based on EPC2045 eGaN FETs
図3: EPC9130は、eGaN FETのEPC2045をベースにした700 Wで48 V入力、12 V出力のDC-DCコンバータです。これは、最高のシリコン・ベースのコンバータよりも高い電力密度と高い効率を実現しています。このeGaN FETベースのコンバータは、最も低コストのBOM(部品表)を実現できます。

eGaN技術は、8年以上にわたって量産されており、自動車用途で数10億時間もの良好なフィールド経験を蓄積しています。

AEC-Q101認定のeGaN FET

EPCは、AEC-Q101品質試験を完了した最初の2製品の供給を始めました。この製品、すなわちEPC2202図4)とEPC2203(図5)は、定格80 VDSのウエハー・レベルのチップスケール・パッケージ(WLCS:wafer level chip-scale package)封止のディスクリート・トランジスタです。これらの最初のAEC-Q101認定製品に続いて、過酷な自動車環境向けに設計された複数のディスクリート・トランジスタと集積回路を順次用意しています。

The 80 V EPC2202 device passed AEC-Q101 testing
図4:80 VのデバイスEPC2202はAEC-Q101の試験に合格しました。面積は2.1 mm×1.6 mmで、パルス電流定格は75 Aです。
The 80 V EPC2203 device passed AEC-Q101 testing
図5:80 Vのデバイス EPC2203はAEC-Q101の試験に合格しました。面積は0.9 mm×0.9 mmで、パルス電流定格は18 Aです。

EPC2202は、面積2.1 mm×1.6 mmのチップスケール・パッケージに封止され、パルス電流定格75 Aで、80 V、16 mΩのエンハンスメント・モードFETです。EPC2203は、80 V、73 mΩの部品で、パルス電流定格は18 A、0.9 mm×0.9 mmのチップスケール・パッケージです。これらのeGaN FETは、シリコンMOSFETの対応品に比べて、何分の1かの大きさで、10〜100倍高速なスイッチング速度を実現しています。いずれの製品も、以下の新たに出現した広範な自動車用途向けに設計されています。

AEC-Q101試験を完了するために、これらのeGaN FETは、逆バイアスを加えた耐湿試験(H3TRB:high temperature high humidity reverse bias)、高温逆バイアス(HTRB:high temperature reverse bias)、高温ゲート・バイアス(HTGB:high temperature gate bias)、温度サイクル(TC:temperature cycling)やこのほかのいくつかの試験など、厳しい環境およびバイアス・ストレス試験を受けなければなりませんでした。注目すべきは、これらのウエハー・レベルのチップスケールWLCS)・デバイスが、従来のパッケージ封止の部品向けに作成されたすべての試験規格に合格し、チップスケール・パッケージの優れた性能が、耐久性や信頼性を妥協して実現したものではないことを実証しています。これらの部品は、車載品質マネージメント・システム規格IATF 16949の認定を受けた施設で製造されています。

結論:eGaN技術がクルマに来る

EPC2202とEPC2203のAEC-Q101品質認定試験の完了によって、自動車エレクトロニクスは、eGaNデバイスの高効率、高速、小型、低コストを最大限に利用できるようになりました。2018年中に、認定を受ける80 Vの部品がいくつか追加され、性能の範囲がより大きな電流に拡張されるでしょう。

参考文献:

  1. A. Lidow, J. Strydom, M. de Rooij, D. Reusch, GaN Transistors for Efficient Power Conversion, Second Edition, Wiley, 2014.
  2. R. Cortland, “Gallium Nitride Power Transistors Priced Cheaper Than Silicon,” IEEE Spectrum, 8 May 2015