GaNの話シリコンを粉砕するために捧げたブログ
GaNを使った高効率、高電力密度のパワー・ソリューションの設計

GaNを使った高効率、高電力密度のパワー・ソリューションの設計

6 11, 2019

この記事は、もともとM. Di Paolo Emilio氏が米Power Electronic Newsのウエブ・サイトに公開したものです。

窒化ガリウム技術(GaN)に基づくパワー・スイッチング・デバイスは、現在量産中であり、実世界のパワー用途において高効率、高電力密度を提供しています。この記事では、GaN技術を大電力ソリューションに適用する方法を検討し、600 Vを超えてもGaNデバイスが高効率に動作する方法を示す応用例を紹介します。

GaNデバイスは、いくつかの重要な点で、最高クラスの電界効果トランジスタ(FET)および、この他のシリコン・ベースの部品とは異なります。GaNデバイスは、シリコン・ベースのアプローチよりも電力密度を2倍以上高められるソリューションが実現可能です。この結果、部品とパッケージのサイズを小さくできるので、プリント回路基板上でより小さな実装面積のソリューションが実現できます。GaNデバイスは、全体的なシステム・コストが比較的高くなりますが、従来のシリコンよりも効率を高くできます。

テキサス・インスツルメンツ(TI)のGaNソリューションは、すでに量産化されており、現在、多くのユーザーのアプリケーションで採用されています。このほかのGaNデバイスでは、LMG3410R050が現在、評価中で、今後数カ月のうちに量産開始の予定です。

GaNのアプリケーション

GaNデバイスの一般的なパワー用途が図1です。ここでは、ロボット・アームに電力を供給するために、交流230 Vの主電圧を直流48 Vの電圧に変換しなければなりません。左側は、力率改善(PFC)段で、最大効率は99%、スイッチング周波数は1 MHzです。赤色で強調されているところは、スイッチング周波数が高いGaNハーフブリッジの例で、電力密度は約15 W / cm3です。PFC段によって生成される出力は直流400 Vで一定であり、これは中央の図にあるDC / DC LLC回路に供給するためには完璧です。実際、高効率を実現するために、LLCコンバータは入力電圧が一定でなければなりません。図1に示すDC / DCコンバータは、効率97%、スイッチング周波数1 MHz、絶縁された出力電力1 kW、電力密度8.5 W / cm3が得られています。図1の右側のデバイスは、モーター・ドライバで、LMG 5200をベースにした4〜8 V / 10 A、3相、100 kHzのインバータです。ヒートシンクがないことに注目してください。電力密度は非常に高く、30 W / cm3です。

図1:交流電源からモーターへの電力変換

シリコン・デバイスに対するGaN技術の利点を正しく理解するために、図2に示すトランジスタを考えます。まず第1に、入力のゲート容量が同等のシリコン・ベースのソリューションよりも約1/4と小さく、より高いスイッチング速度が得られ、ゲート駆動損失低減の結果として、より高い効率を実現できます。もう1つの重要な利点は、出力の容量/電荷が小さいことです。これによって、スイッチング周波数を高くできるので、スイッチング損失を減らすことができます。さらに、オン抵抗RDS(on)がシリコン・デバイスよりも約1/2と小さいので、導通損失が小さくなります。最後に、このトランジスタを使うと、内蔵の「ボディ」・ダイオードをなくすことができます。つまり、スイッチ・ノードでのリンギングを減らし、いかなる逆回復損失もなくすことができます。

図2:シリコン・ソリューションに対するGaNの主な利点

ドライバの集積化と保護回路

テキサス・インスツルメンツは、プリント回路基板の実装面積を削減し、全体的な設計を単純化するために、GaNデバイスにドライバを完全に集積しました。LMG3410のような完全に集積化されたGaNパワー・デバイスは、スイッチ・ノードのリンギングが小さい(Vdsのリンギングがほぼゼロで100 V/nsのスイッチング)ので、電磁干渉(EMI)雑音を低減でき、100 ns以下で定格化した過電流保護と過熱シャットダウンを備えています。ディスクリートのGaNデバイスは、外付けのドライバと保護回路が必要になり、コスト増につながります。さらに、プリント回路基板上でより大きな面積が必要になり、設計上の大きな課題となります。図3は、ディスクリートのGaNデバイスと比べて、ドライバを集積したデバイスの利点の概要です。

図3:ドライバの集積化は、ディスクリートのGaNソリューションに比べていくつかの利点があります。

ドライバのバイアス電圧は、性能と、長期的なデバイスの信頼性の両方にとって重要なので、慎重に評価される最初の視点です図4に示すように、GaNのバイアス電圧は、平均故障時間(MTTF)を安全な値(つまり、10年の寿命に対応する水平の破線より上)に維持するように調整する必要があります。

図4:MTTFとゲート-ソース間電圧(VGS

ディスクリートGaNも適切な過電流保護回路が必要です。高周波や高スルーレートでの耐久性の高い過電流保護回路の設計は、難しくてコストがかかります。寄生インダクタンスは、特に高い周波数において、GaNに対してスイッチング損失、リンギング、信頼性の問題を引き起こします。内蔵ドライバを使うと、図5に示すような信号形状を実現できます。スイッチング時間は最小であり、立ち上がり時間は102 V / nsです。つまり、この信号は4 ns以内に0 Vから400 Vまで上昇します。

図5:TIのGaNデバイスのスイッチング時間

E外付けの過電流保護(OCP)回路やシュートスルー(貫通)保護回路にも検出抵抗を追加する必要があります。より高い信号対雑音比(SNR)を達成するために値が大きい抵抗器を選べます。この結果、センス抵抗によって、時間による電圧変化(dV / dt)が小さくなり、100 V / nsから80 V / nsに低下し、電力ループの損失と電力損失の両方が増加します。完全に集積した過電流保護回路と、専用に実装した過電流保護回路との比較を図6にまとめました。この図には、12 mΩの抵抗2個を並列接続した抵抗シャントの例も示しています。

図6:OCPとシュートスルー保護を集積化したときと外付けしたときの比較

GaNアプリケーション:AC / DCコンバータ

広く普及しているGaNの用途は、AC / DC変換です。図7は、産業、医療、電気通信、サーバーのアプリケーションで電源装置(PSU)を実装するために使われる一般的な回路構成を示しています。このコンバータは、広い入力電圧(交流85 V〜265 V)のPFC(力率改善)段、直流400 Vの一定出力、および、異なる出力電圧(直流12 V、24 V、48 V)を供給できるLLCコンバータを備えています。

図7:GaNデバイスの一般的な用途はAC / DCコンバータです。

このコンバータのPFC段は、図8の左側の回路図に従って実装することができ、600 VのGaNハーフブリッジLMG3410で構成した一般的なトーテムポール構成です。PFCのコイルは、入力電圧と同相の入力電流を安定化するために使われます。図8の右側がLLC回路の回路図です。ここで、共振はLr、Cr、Lmの値によって決まります。この段は、高速スイッチングが可能で、ハーフブリッジ・スイッチ間のデッドタイムを最小化する高電圧の直接駆動GaN FETであるLMG5200などのGaNデバイスを使って実装できます。

図8:PFC段とLCC段の回路図

このソリューションは、高効率で、損失を最大36%削減し、より高い電力密度を実現できます(トーテムポールPFCのとき、シリコンに対して最大3倍)。これによって、ヒートシンクの数を減らせ、導体やコンデンサを小型化できるので、コストを増加させることなく完全なソリューションの重さを軽くできます。

図9に示す1.6 kWのトーテムポールPFCを考えてみましょう。このソリューションは、出力電力1 kW、最高スイッチング周波数140 kHz、直流出力電圧285 V(広い入力電圧から生成)、電力密度は約10 W / cm3が得られます。

図9:GaNデバイスLMG3410を使ったトーテムポールPFC

図2のトランジスタが示すように、低出力容量(COSS)は、デッドタイムを短くして、電流が出力に供給される時間を長くするために重要です。これによって、励磁インダクタンスが大きくなり、渦電流損失が小さくなり、トランスの漏れ磁界損失も小さくなります。ゲート・ドライバの損失も同様に低減できますが、システムの最適化は、スイッチング周波数、効率、電力密度を高くすることで実現できます。これに関連する波形が図10で、スイッチング周波数(fSW)が共振周波数(fR)よりも低いことを示しています。これによる減少は、デッドタイム損失と渦電流損失の両方で明らかです。

図10:ハーフブリッジのスイッチ間のデッドタイムの短縮

図1に示すTIのPMP20637は、高効率、高電力密度、軽量の共振コンバータ(LLC)のリファレンス・デザインです。380~400 Vの入力を1 MHzの固定スイッチング周波数で48 V / 1 kWの出力に変換します。パワー段のPMP20637は、ピーク効率が97%以上で、電力密度は約8.5 W / cm3を実現しています。

図11:TIのリファレンス・デザインPMP20637

GaNとシリコンのパワーMOSFETデバイスの効率の比較が図12です。このグラフが示すように、静電容量と渦電流が減少すると、低電流負荷での効率が劇的に向上します。抵抗が制限されているため、大電流でも同様に効率がわずかに向上します。

図12:GaNデバイスとシリコンMOSFETデバイスの効率の比較

GaNのアプリケーション:モーター駆動

GaNデバイスは、モーター駆動用途において大きな利点があります。ヒートシンクの数を減らすか、なくすことができます。GaNは、スイッチ・ノードの振動も低減または排除し、この結果、放射されるEMI(電磁干渉)が小さくなり、スナバ・ネットワークが必要なくなります。GaNデバイスを使ってパルス幅変調(PWM)周波数も高めることができるので、非常に低インダクタンスの永久磁石モーターやブラシレスDCモーターの駆動が可能になります。サーボの駆動/ステッピングの位置決めがより正確になり、トルクのリップルが最小になり、1〜2 kHzを超える周波数でのより優れた正弦波電圧が実現可能です ―― 高速ドローン・モーターにとって理想的なソリューションになります。

図13:高速モーター向けのGaNの3相インバータ

図13は、高速モーター用の48 V / 10 Aの3相インバータです。GaNハーフブリッジLMG5200が3個搭載されています。このインバータは、広い入力電圧範囲(直流12〜60 V / 400 W)に対応し、スイッチング周波数は100 kHz、ピーク効率は98.5%、電力密度は9.5 W / cm3です。

図14に示す温度プロファイルは、当社の48 V / 10 Aインバータの熱特性を際立たせています。図から明らかなように、ヒートシンクは不要です。すなわち、すべての熱は自然対流によって放出されます。全負荷条件下で外部温度28℃において、デバイスが100 kHzでスイッチングすると、最高温度は106℃に達します。

図14:3個のGaNハーフブリッジLMG5200を搭載した48 V / 10 Aのインバータの熱特性

GaNを600 V以上に

独シーメンスは、GaNデバイスLMG3410R050に基づいた高効率送電網のデモ・プロジェクトを開発しています(図15)。マルチレベルの双方向GaNコンバータは、3相送電電力(交流400 Vの線間および交流230 Vの線対中性点)を直流700 Vの電圧に変換します。 RDS(on)が50 mΩのLMG3410は、双方向で最大出力定格10 kWです。テキサス・インスツルメンツのデュアル・コアのマイクロコントローラDelfinoは、電源ソリューションを制御し、Wi-FiのSimpleLink接続も備えています。

Figure 15:LMG3410R050に基づく効率的な送電網

このデモ・アプリケーションでは、GaNデバイスが最大10 kW以上の電力アプリケーションにスケーラブルな送電ソリューションを提供し、シリコンの設計と比べて磁気部品が1/5、電力部品が1/3に小型化できる方法を示しています。遠隔測定、制御、システムの保守のためのクラウド対応ソリューションも表しています。パワー・デバイスを含むその他のターゲット・アプリケーションのすべてを図16にまとめました。

図16:GaNデバイスのその他のターゲット・アプリケーション

GaN技術は、そうでなければ不可能であろう新世代の電力変換設計を可能にしています。交流から負荷点まで、電力密度を最大3倍向上させることができます。1 MHzのスイッチング周波数で動作する絶縁型LLCコンバータでは、GaN技術によって磁気部品のサイズと重さを1/6に小型化できます。ドライバとGaNを低インダクタンスのパッケージに統合することで、高速(より高いスイッチング周波数)と信頼性(より長寿命)のデバイスに最適なソリューションを提供します。

テキサス・インスツルメンツのシニア・アナログ・フィールド・アプリケーション・エンジニアであるXaver Arbinger氏によるプレゼンテーションに基づいてM. Di Paolo Emilio氏が執筆しました。