GaNの話シリコンを粉砕するために捧げたブログ
なぜ宇宙にGaNなのか?

なぜ宇宙にGaNなのか?

6 28, 2020

SEE耐性や耐放射線特性を強化し、パッケージ化されたエンハンスメント・モード窒化ガリウム(eGaN)・デバイスは、成熟した耐放射線シリコンMOSFETに比べて、性能が劇的に改善され、これまでにない高周波、高効率、高電力密度で動作する宇宙における新世代のパワー・コンバータを可能にします。

宇宙における放射線

宇宙で半導体が受ける放射線には、いくつかの種類があります。地球の周りの軌道にある衛星、または太陽系の最も遠い所へ行く探査衛星の中のデバイスはすべて、何らかの形の高エネルギー放射線を被ばくします。放射線の主な種類には、ガンマ線、中性子線、重イオン衝撃の3つがあります。

エネルギー粒子は、主に3つの原因で半導体に損傷を与える可能性があります;すなわち、 非導電層にトラップを引き起こしたり、結晶に物理的損傷を引き起こしたりする可能性があります。後者は、変位損傷とも呼ばれます。さらには、電子と正孔のペアの雲を生成し、デバイスを瞬間的に導通させ、場合によっては処理中に燃え尽きる可能性があます。

シリコンと比べて、GaNデバイスの物理的特性と構造は、宇宙での放射線によって引き起こされる損傷に対する優れた耐性があります。

ガンマ線

eGaNデバイスの構造は、シリコンMOSFETとは大きく異なります。GaN FETの3つの端子、つまり、ゲート、ソース、ドレインはすべて、表面にあります。シリコンMOSFETと同様に、ソースとドレインとの間の導通は、ゲート電極を0 Vから正の電圧にバイアスすることによって変調されます。eGaN FETでは、ゲートは、窒化アルミニウム・ガリウム層によって、下にあるチャネルと分離されています。この層は、ガンマ線を受けても、電荷を蓄積しません。

図1:標準的なエンハンスメント・モードGaN(eGaN®)デバイスの断面図

EPC Space社は、100 VのeGaNトランジスタのファミリーに500 kRad(Si)のガンマ線を照射しました。ドレインからソース、およびゲートからソースへの漏れ電流、および途中のさまざまなチェック・ポイントでのデバイスのしきい電圧とオン抵抗を測定し、デバイスの性能に大きな変化がないことを確認しました。その後、デバイスは、50 MRads(Si)を受けており、eGaNデバイスが宇宙システムでのガンマ線によって故障する最初の部品にはならないことを確認しています。

中性子線

中性子衝撃下のデバイスの主な故障メカニズムは、変位損傷です。高エネルギーの中性子は、結晶格子内の原子から散乱し、格子欠陥を残します。ガンマ線と同様に、中性子がGaN結晶およびデバイス構造全体に与える影響は最小限です。

中性子線照射の下でのGaNの優れた性能の理由は、GaNがシリコンと比べて、はるかに高い変位しきい値エネルギーを持っているためです。図2は、さまざまな結晶の格子定数の逆数と比べたときの変位エネルギー(縦軸)です。GaNの変位エネルギーがシリコンと比べて、いかに高いかに注意してください。

図2:さまざまな結晶の格子定数の逆数と比べた変位エネルギー

シングル・イベント効果

シリコンMOSFETには、重イオンによって引き起こされる2つの主な故障メカニズム、つまり、シングル・イベント・ゲート破壊(SEGR)とシングル・イベント焼損(SEB)があります。SEGRは、ゲート酸化物が破壊するような非常に高い過渡電界を生じるエネルギー原子によって引き起こされます。一方、 シングル・イベント焼損、つまりSEBは、エネルギー粒子が比較的高い電界があるデバイスのドリフト領域を横切るときに発生します。エネルギー粒子は、多数の正孔電子対を発生する間にそのエネルギーを失います。これらの正孔と電子のペアによって、デバイスはドレインとソースとの間で瞬間的に短絡します。この短絡は、シングル・イベント焼損と呼ばれるデバイス破壊の可能性があるか、または、デバイスが存続しても、シングル・イベント・アップセットまたはSEUと呼ばれ、システム内の他の部品に損傷を与える可能性がある瞬間的な短絡として現れます。

eGaNデバイスにはゲート酸化膜がないため、シングル・イベント・ゲート破壊されることはありません。eGaNデバイスは、多数の正孔を非常に効率的に導通する能力がないため、シングル・イベント・アップセットを引き起こすこともありません。図3に示したグラフは、重イオン衝撃下でのeGaNデバイスの主要な故障メカニズムです。この条件は、ほぼ可能な最大条件であり、データシートの最大制限でバイアスされたデバイスに、金原子の85 MeVcm-2mg(LET)のビームが照射されます。縦軸はデバイスの漏れ電流で、横軸はデバイスによって吸収されたデバイス1cm2当たりの重イオンの数です。3個の100 VのeGaNトランジスタ(FBG10N30)に対して、点線は、ゲート-ソース間の漏れ電流を示し、実線は、ドレイン-ソース間の漏れ電流です。衝撃中にゲートの漏れが増加しないことに注意してください。ただし、重イオンからの変位による損傷が大きくなると、ドレイン-ソース間の漏れは増加し始めますが、デバイスは、106イオン/ cm2をはるかに超え、データシートの制限内に収まっています。

図3:eGaNデバイスのSEEの主要な故障メカニズム

システム性能

eGaNデバイスが、放射線試験で、成熟した耐放射線シリコンMOSFETよりも優れていることが実証されたので、ここで、性能の比較を見てみましょう。下表は、100 Vおよび200 Vの耐放射線GaNトランジスタと、独インフィニオン テクノロジーズの耐放射線パワーMOSFETの電気的性能の比較です。

表1:耐放射線GaNトランジスタと、インフィニオンの耐放射線パワーMOSFETの電気的性能の比較

EPC Space社の100 Vのパッケージ品FBG10N30は、シリコンMOSFETに比べてオン抵抗は半分ですが、サイズは1/10で、スイッチング速度を決定するゲート電荷とゲート-ドレイン間電荷は約1/20です。さらに、放射線性耐性が大幅に高くなります。

200 Vでは、eGaNトランジスタの電気的性能の差はさらに大きくなります。表1の200 Vの部分の左側に記載されているeGaNデバイスは、同等のMOSFETと同じようなオン抵抗ですが、サイズは1/10であり、優れた放射線耐性を示し、スイッチング性能が約30倍優れています。

図4は、GaNの優れた性能がシステム性能にどのように影響するかを示す例として、EPC Space社のデバイスを使った米VPT社のコンバータを示しています。最大効率95%が得られ、GaNを使うと効率が向上します。このコンバータは、高効率、低雑音、耐放射線特性が不可欠な宇宙通信用に特別に設計されています。

図4:EPC Space社のGaNデバイスを使ったVPT社のコンバータSGRB10028Sの写真と標準的な測定された効率

今後

eGaNデバイスは、故障メカニズムがシリコンMOSFETと比べて非常に異なり、さまざまな形の放射線に曝された場合、eGaNデバイスは、耐放射線 MOSFETよりも丈夫です。同様に重要なのは、GaNデバイスの電気的性能が、成熟したシリコン・パワーMOSFETよりも何倍も優れており、衛星の電力やデータ伝送、ロボット、ドローン、航空機の電力システムに対して、まったく新しいアーキテクチャが可能になることです。

EPC Space社のGaNパワー・ソリューションにおける最初のSEE耐性と耐放射線特性を備えたファミリーでは、小型衛星、LEO(地球低軌道)衛星、GEO(静止軌道)衛星のパワー・マネージメント(電源管理)、深宇宙や宇宙の探査、ミッションで使われるロボット・システムのモーター駆動、正確な位置決めとドッキングのためのLidarシステムなどの無数のミッション・クリティカルなアプリケーションへのカバーを迅速に拡大する計画です。

必ず「この宇宙を見てください」:シャレです!