重要なポイント
- 窒化ガリウム(GaN)と炭化ケイ素(SiC)は、高い性能と安いコストによって、電力変換においてシリコン(Si)を置き換えるでしょう
- GaNとSiCは、市場の異なる分野で利用されるでしょう。GaNは、民生用電子機器、通信機器、コンピュータのアプリケーションを獲得し、一方、SiCは、大きな電圧と電流を要求する工業用アプリケーションで傑出しているでしょう。
- GaNとSiCの製造コストは、今後3年で下がるでしょう。GaNデバイスのコストは、標準的なシリコン・ウエハーの上に結晶の薄い層を成長することが支配的要素です。SiCデバイスのコストは、バルク・インゴットの中にSiC結晶を成長することが支配的要素です。
電力変換:
シリコンの道は行き止まりです
GaNとSiCは両方とも、電力変換市場では、シリコンを超える基本的な大きな利点があることから始まります。これらのデバイスは、同等の電圧と電流を扱う能力で、はるかに、はるかに小さいサイズで作ることができます。この小型化は、結晶中の原子の結合エネルギーが高いためであり、このため、ワイド・バンド・ギャップ半導体と呼ばれています。GaNの場合には、結晶も電子の移動度が大きくなっています。これらの3つの結晶の相対的な理論特性を図1に示します。ここで、垂直軸は、デバイスの相対的なサイズを示し、水平軸は、デバイスの阻止電圧能力を示します。電圧が高くなるにつれて、Si、GaN、SiCの相対的なチップ・サイズも大きくなります。しかし、すべての電圧で、SiCとGaNのデバイスは、シリコンよりも数桁も小さくなっています!
市場では現在、シリコンの理論的な限界よりも5~10倍優れたGaNやSiCのトランジスタが存在し、ムーアの法則の比率に従って予想される技術的進歩によって、今後数年にわたって、GaNとSiCには、より優れた特性が期待されます。
優れた特性で、残された質問は次の2つです。(a)GaNとSiCの相対的な利点と欠点は何か? (b)GaNやSiCのデバイスが、なぜ、とっくにSiに置き換わっていないのか?
相対的な利点:GaN対SiC
GaNとSiCがSiを超えた初期の成功は、電圧分布の反対の端にありました。GaNは、要求が600V以下のアプリケーションに食い込み、一方、SiCは、要求が1200Vを以上のアプリケーションに食い込んでいます。このように分かれた理由には、2つの要素があります。すなわち、速度とコストです。
GaNデバイスは、SiパワーMOSFET(電圧600V以下で主流のシリコン・トランジスタ)よりも小さいだけでなく、はるかに高速です。GaNの速度は、以下の2点に由来します。(a)大きさの利点。つまり、デバイスが小さいので電子が遠くに移動しなくてよい。(b)GaN結晶中の電子の移動度が高い。すなわち、電子は、より速く動くことができる。デバイスがより高速にスイッチングできると、耐圧600V以下の電力変換のアプリケーションでは、はるかに効率が高くなります。このため、GaNトランジスタの「アーリー・アダプタ(初期採用者)」の集合を形成するプレミアム市場ができます。
SiCトランジスタは、主にその大きさの利点によって、高い電圧で成功を収めています。非常に高耐圧のSiCデバイス(1200V以上)は現在、この耐圧で現在主流のシリコン・トランジスタであるSiのIGBTよりも1桁小さくすることができます。この大きさの利点は、UPS(無停電電源)システム、モーター駆動、高電圧DC-DC送電のような産業用アプリケーションで大きな違いを生じます。
低耐圧では、SiCを上回るGaNの利点は、今日使われるそれぞれの製造技術の差から来ます。GaNトランジスタを製造する最もコスト効率の高い方法は、シリコン・ウエハー上に薄いエピタキシャル層の結晶を成長させることです。次いで、このウエハーは、非常に低コストで、標準的なシリコンCMOS工場のアクティブ・トランジスタの処理が可能です。さらに、低耐圧GaNトランジスタは、Si MOSFETやSiCトランジスタに必要な高価で大きく、しかも特性を落とすパッケージを必要としません。この結果、SiとSiCの両方と比較して、GaNトランジスタは、低耐圧では非常にコスト効率が高くなります。
高耐圧でのGaNを上回るSiCの利点は、デバイス構造から来ます。高耐圧では、電流がウエハーを通って導通すると、トランジスタは、より効率的になります。横型デバイスと呼ばれる低耐圧GaNトランジスタと比べて、この種のトランジスタは、縦型デバイスと呼ばれています。縦型構造は、SiCウエハー全体が単結晶タイプで作られていることが必須です。SiC結晶は今日、GaN結晶よりも、非常に低コストなので、この市場の初期の採用を牽引しています。
製造コストの要素
より製造コストがかかる技術的に優れたデバイスは、強化された特性を必要とするニッチな市場において成功するでしょう。技術を完全に置き換えるためには、製品の性能向上と低価格化の両方が必要です。トランジスタの製造におけるコストの重要な要素は、(1)出発物質、(2)エピタキシャル結晶成長(低耐圧GaNとSiのみ)、(3)ウエハーの製造、(4)パッケージングのコストです。表1では、SiパワーMOSFETと比べたときのGaNのコストを(a)に、IGBTと比べたときのSiCのコストを(b)に示します。この比較は、時間とともに期待されるコスト要素の進展を説明するために3年後と比べています。
表1:相対的な製造コストの比較:(a)SiパワーMOSFETに対するGaN FET、(b)Si IGBTに対するSiCデバイス
GaN(600 V以下) |
|
2013年 |
2016年 |
出発物質 |
安価 |
安価 |
ピタキシャル成長 |
高価 |
同等 |
ウエハー製造 |
安価 |
安価 |
アセンブリ |
安価 |
安価 |
全体 |
高価 |
安価 |
(a) |
SiC(1200 V以上) |
|
2013年 |
2016年 |
出発物質 |
高価 |
同等 |
ピタキシャル成長 |
n/a |
n/a |
ウエハー製造 |
高価 |
同等 |
アセンブリ |
同等 |
安価 |
全体 |
高価 |
安価 |
(b) |
Siと比べて、GaNもSiCも両方とも、デバイス・サイズが小さいという利点があります。GaNの場合、GaNトランジスタは標準的なシリコン・ウエハー上に形成するので、これは即、出発物質のコスト・メリットにつながります。しかし、SiCは、サイズの利点を考慮に入れても、比較的高価な基板が必要です。今後数年にわたって、SiCの結晶成長のコスト改善が、1200V以上でSiCに相対コストの利点を与え、Si IGBTの強みを帳消しにするとみられています。
今日、GaNトランジスタをMOSFETと比較すると、シリコン・ウエハー上のGaNのエピタキシャル成長が唯一のコスト的なデメリットです。しかし、エピタキシャル成長装置の進歩で、このデメリットが今後数年で同等になるとみられるので、GaNには、成熟したMOSFETを上回る明らかなコスト・メリットが与えられるでしょう。
電力変換におけるシリコンの置き換え
シリコンの相当デバイスを超える性能とコストの両方の利点で、GaNとSiCは、そう遠くない将来に、120億米ドルのパワー・トランジスタ市場のそれぞれの分野でSiを置き換えると思われます。