重要なポイント

  • 窒化ガリウム(GaN)トランジスタは、電力変換のアプリケーションで、シリコン・パワーMOSFETを置き換え続けるでしょう。
  • EPCのeGaN FETのようなエンハンスメント・モードのデバイスは、同等の価格で、パワーMOSFETよりも小さく、10倍高速です。
  • eGaN FETがパワーMOSFETを置き換える割合をコントロールする4つの重要な要因は、新しいアプリケーションの拡大、設計者に使いやすいこと、価格、信頼性です。

電力変換:
シリコンの道は行き止まりです

Fast Just Got Fasterの2番目のブログで議論したように、窒化ガリウム(GaN)と炭化ケイ素(SiC)は、高性能化と低コスト化によって、電力変換でシリコン(Si)に置き換わり始めました。GaNトランジスタが有力なパワー・デバイスになり続けるであろうと予想されています。

Fast Just Got Fasterのこのブログでは、常識を覆すような破壊的な技術になり得るエンハンスメント・モードGaNトランジスタの特質を議論し、「パワー・トランジスタの選択肢」として、GaN技術がシリコンMOSFETを置き換えるために必要な4つの要因を明らかにします。

エンハンスメント・モードFET:競争力のある価格で破壊的技術

EPCは、2009年中ごろに、初めて「いつでも買える」エンハンスメント・モードGaN電界効果トランジスタ(eGaN®FET)を製品化しました。最初の製品の定格電圧の範囲は、40V~200Vでした。この範囲は、63億米ドルのパワーMOSFET市場の76%に相当します! パワーの設計者に提供するeGaN FETの3つの基本的な特性は、スイッチング速度、小型、そして競争力のある価格です。

比較対象として、GaNトランジスタには2種類、すなわち、デプリーション・モード(ノーマリ・オフ)とエンハンスメント・モード(ノーマリ・オン)があります。デプリーション・モードのデバイスは、パワー・コンバータ起動時の突発的な故障を避けるために、最初に制御電極(デバイスのゲート)に負の電圧をかけなければならないので不便です。この固有の制約を補うには、MOSFETを追加する必要があり、コストが増加します。一方、エンハンスメント・モード・デバイスは、この固有の起動時の制約がなく、MOSFETが設計に含まれる必要はありません。

製品化以来、eGaN FETは、標準的な既存のシリコン製造装置を使う標準的なシリコン・ウエハー工場で処理できるので、最も単純で最低のコストで製造できるGaNデバイスであることが分かりました。

さらに、eGaN FETは、横型の構造なので、チップ・レベルのパッケージングが可能になり、標準的なシリコンMOSFETに必要な高価な外側のプラスチック・パッケージが必要なくなります。eGaN FETとパワーMOSFETとの大きさの比較は、等価な電力変換回路(図を参照)の各辺の比較で明らかです。MOSFETは、電力変換システムで、価値のあるスペースを消費することに加えて、プラスチック・パッケージは、最終的なパワーMOSFETのコストの50%(平均値)を占めます。

この大きさの利点に加えて、eGaN FETのスイッチング速度は、入手可能な最高のシリコン・トランジスタよりも10倍高速です。この速度の利点は、窒化ガリウム・トランジスタが電力変換効率を高め、システム全体のコストを下げ、立派なシリコン・パワーMOSFETの範囲を簡単に超える新しくて刺激的なアプリケーションを可能にします。

シリコン・パワーMOSFETをeGaN FETに置き換える

35年前、シリコン・パワーMOSFETは、バイポーラ・トランジスタを置き換える破壊的技術でした。この移行の原動力には、新しい電力変換技術の普及率をコントロールしている4つの重要な要因があったことを学びました:

  1. それは、大きな新しいアプリケーションを可能にしますか?
  2. それは、使いやすいですか?
  3. それは、ユーザーにとって本当にコスト効率が高いですか?
  4. それは、信頼性が高いですか?

さて、シリコン・パワーMOSFETに対する次世代技術であるeGaN FETについて、これらの質問の各々に関して個別に検討してみましょう。

  1. それは、大きな新しいアプリケーションを可能にしますか?

    主にeGaN FETのスイッチング速度が速いために可能になる大きな新しいアプリケーションのいくつかの例を次に示します。
     
    1. 包絡線追跡(Envelope Tracking): これは、衛星、基地局、携帯電話を通して、私たちの声やデータのすべてを送信するために使われるRFパワー・アンプのエネルギー効率を2倍にすることができる電源技術です。 包絡線追跡(Envelope Tracking) は、電力需要を正確に追跡し、信号の変調に必要なアンプの電力に正確に合った電力を供給することによって実行されます。今日、RFパワー・アンプは、送信機がそれを必要としていようが、いまいが最大電力を供給する固定電力レベルで動作します。非常に刺激的なことですが、eGaN FETは、4G LTEネットワークで使われる高いデータ伝送速度で電力需要を追跡することが可能な最初のトランジスタです!
    2. ワイヤレス・パワー: コードを切断してください! ワイヤレス・パワー伝送によって、コンセントにプラグを差し込まなくても、携帯電話や、ゲーム・コントローラ、ノート・パソコン、タブレット端末、さらには電気自動車でさえも、再充電できます。現在、給電のために高周波の規格(6.78MHz)が、 ワイヤレス給電技術の業界団体A4WP によって採用されています。MOSFETは、この速い速度ではうまく動作しないですが、eGaN FETは、理想的に十分高速にスイッチングする選択肢となり得ます。
    3. LiDAR(光による検出と距離の測定): LiDAR(http://ja.wikipedia.org/wiki/LIDAR) は、周辺領域の3次元画像を迅速に生成するためにパルス・レーザーを使います。この技術は、地理的なマッピング機能に広く使われ、いわゆるグーグル・マップの「運転者のいない」クルマを運転する技術です。eGaN FETの高速なスイッチング速度は、優れた解像度と応答時間に貢献し、テレビ・ゲームや、もはやタッチ・スクリーンを必要としないコンピュータ、完全な自律走行車向けのリアルタイムの動き検出のようなアプリケーションへのマッピング機能を超えたLiDARアプリケーションを可能にします。
  2. それは、使いやすいですか?

    GaN Transistors for Efficient Power Conversion EPCのeGaNトランジスタは、既存のパワーMOSFETの振る舞いに非常に良く似るように設計されています。したがって、電力システムのエンジニアは、最小の付加的なトレーニングで設計経験を応用することができます。学習曲線を上昇させたい設計エンジニアを支援するために、EPCは、窒化ガリウム・デバイスとそのアプリケーションに関する教育において、業界のリーダーとしての地位を確立しました。実際、EPCは、50以上の記事とプレゼンテーションの公表に加えて、2011年には、業界初のGaNトランジスタのテキスト(英語と中国語)「 GaN Transistors for Efficient Power Conversion(高効率電力変換用GaNトランジスタ))」を出版しました。現在、第2版を執筆中で、2014年末には、世界的なテキスト出版社John Wiley社から出版される予定です。EPCは、eGaN FETを最大限に利用するようにトレーニングされた次世代の高度に熟練した電力システム設計者の基盤を築くために、世界中の30以上の大学と協力しています。
  3. それは、ユーザーにとって本当に コスト効率が高いですか?

    前述したように、EPCのeGaN FETは、シリコン・パワーMOSFETに類似したプロセスを使って生産され、実際、MOSFETよりもわずかに多くの処理ステップで済みます。より高価な唯一のステップは、標準的なシリコン・ウエハーの上に窒化ガリウム結晶層を薄く「エピタキシャル」成長することです。装置の設計の改良が進展すれば、このエピタキシャル成長が大きな追加コストにならなくなるでしょう。GaNトランジスタが成熟するにつれて、前述したパッケージングに関する大きな利点を考慮すれば、eGaN FETの生産コストは、MOSFETよりも著しく下がる可能性があります。この点で、システムのコスト削減を実現するために、設計者がGaNの高い性能を利用する必要さえなくなります。
  4. それは、 信頼性が高いですか?

    シリコン上のGaNトランジスタは、信頼性を確立する初期段階にあります。現在まで、いくつかのメーカーによる何1000万時間ものストレス・テストは、この技術が今日、商用アプリケーションでの信頼性において、合格レベルで動作できることを示しています。

したがって、高速スイッチング、小型、価格競争力は、シリコンMOSFETを置き換え続けるためのエンハンスメント・モードGaNトランジスタの特質となります。この成功の目安として、GaN FETは、「パワー・トランジスタの選択肢」として、シリコンMOSFETを置き換えるために必要な4つの要因を克服しつつあります。

次の話題

置き換え技術としてのeGaN FETの将来は、今後3〜5年にわたって非常に有望です。

Fast Just Got Fasterの4番目のブログでは、eGaN FETの最も大きくて新しい2つのアプリケーションである包絡線追跡とワイヤレス・パワーについて、深く考察します。GaN技術から引き出される価値を議論すると同時に、商機の規模も見積もります。