重要なポイント
- モビリティ(移動の自由、縛られない)は、この世紀中の消費者の主な願望となっています ――「モビリティ・インペラティブ」の創造
- eGaN®FETの特性上の重要な特徴は、速度です ―― このパワー・トランジスタは、シリコンMOSFETよりも約10倍も高速です1。
- eGaN®FETの速度は、モビリティ・インペラティブによって牽引される新しいアプリケーションへの道を切り開いています。すなわち、包絡線追跡、ワイヤレス・パワー、自動運転車 ―― 消費者が「縛られない」ことを可能にします。
モビリティ・インペラティブ:
縛られない消費者!
消費者は、好きなときに、好きな場所へ、ワイヤレスで行くことができるようにしたいと思っています。タブレット端末、携帯電話、ノート・パソコン、自動車などとテレビをシームレスに同期させたいと思っています。すべての通信、情報、エンターテインメントを、高解像度でいつでも、すぐに利用したいと思っています。ここにきて、自動車産業は、このトレンドに目を付けており、完全に移動性のあるライフスタイルの将来ビジョンを示し始めています2。
消費者は、電池が切れる心配もしたくありませんし、空港で空いているコンセントを探し回りたくもありません。この縛られない生活を「モビリティ・インペラティブ」と呼び、これが消費者向け製品のイノベーションを牽引し、そして、シリコン・ベースの半導体技術を限界に近づけています。
シリコン・パワー・トランジスタ(MOSFET)がガソリンを使い果たすので、電力変換とデータ伝送の世界では、窒化ガリウム・トランジスタが次世代の半導体デバイスになります。Efficient Power Conversion(EPC)社のエンハンスメント・モード窒化ガリウム・トランジスタ(eGaN®FET)は、5年にわたって生産されています。成熟した前任者のシリコンのパワーMOSFETと比べて、これらのデバイスは、小型で、特性が優れ、低コストです。GaNの低い生産コストや小型化に加えて、その高速性能によって、この技術は「モビリティ・インペラティブ」を実現するために最適です。
無線帯域幅の拡大:データ伝送量の増加、バッテリーの長寿命化
現在の固定電力システムと比較して、包絡線追跡は、電力需要を正確に追跡することによって、RFパワー・アンプのエネルギー効率を改善するための電源技術です。携帯電話に包絡線追跡を使うと、より長い時間、話せることになります。基地局では、はるかに小さいエネルギー消費で済む小型で安価なアンプを実現でき、運用がより安価になります。
図1:出典:Cisco Visual Networking Index(VNI)のモバイル・データ・トラフィックの2015年の予測3
図2:eGaN FETを使う包絡線追跡システムの例。eGaN FETは、回路基板上の青色の四角形のデバイスです。写真は米NewEdge Signal Solutions社の提供4
無線データへの需要が拡大するにつれて、包絡線追跡によって提供される価値が劇的に高まります(図1参照)。送信機を増やすだけでは、問題を解決できません。むしろ、パワー・アンプ当たりのデータ送信帯域幅を広くすることが必要になります。データ送信帯域幅が広がると、そのシステムが包絡線追跡法を採用しない限り、送信機のパワー・アンプの効率が大幅に低下します。
窒化ガリウムは、包絡線追跡コンバータと広帯域RFパワー・アンプの両方の設計を可能にする技術とみられています。eGaN FETの超高速スイッチング能力は、包絡線追跡の電源システムで使われる高周波でマルチフェーズのバック・コンバータを実現可能にします。
ワイヤレス・パワー伝送が電源コードを切断 ――「コンセントを探す」必要はありません!
ニコラ・テスラが20世紀初頭に初めて無線電力の実験をして以来、電力の「電源コードを切断する」ことへの模索がありました ―― 無線に行け! 100年以上経った今、テスラのビジョンを実現するための技術の力が現実味を帯びてきています。
磁界の発生に基づく高共鳴ワイヤレス・パワー伝送は、実行可能な道であることが証明されています。磁界は、ワイヤレス・パワーを実現するために必要な前提条件を提供します。すなわち、使い勝手、丈夫さ、そして、最も重要なことは、安全であると考えられることです。ワイヤレス・パワーのアプリケーションには、携帯電話やコンピュータの充電から、危険な環境や埋め込み型医療器具のシステムへの電力供給まで果てしなく広がります。
図3:将来の家のこのビジョンに示されるように、将来、電源コードは、もはや使われなくなるかもしれません6。写真は米WiTricity社の提供。
多種多様なモバイル機器が爆発的に登場し、ワイヤレス・パワー伝送が、面倒なケーブルの煩わしさや、「プラグ・イン」のためのコンセントを探す不便さがないバッテリー充電の利便性を提供します。図3は、将来の家の姿を示すイラストです。電源コードなしですべての電気製品に電力を供給するようになるかもしれません。
過去数年にわたって、ワイヤレス・パワー伝送のための3つの標準規格が出てきています。これらの規格は、業界のコンソーシアムであるWireless Power ConsortiumのQi(チー)、the Power Matters Alliance、the Alliance for Wireless Power(A4WP)、さらに、Rezence®(レゼンス)5として知られている団体などによって設定されています5。Rezence®規格が勝っています。というのは、単一の送信機から、かなりの距離の複数の機器を同時に充電することができるからです。
ワイヤレス・パワー伝送の規格Rezence®は、すでに携帯電話やタブレット端末の充電用途に急速に普及しています。例えば、自動車メーカーの中には、自社のクルマのセンター・コンソールに無線充電システムを組み込むことによって、自動車が動いている間、スマートフォンだけでなく、他のモバイル機器も、激しい連続使用にもかかわらず、充電し続けることができるようにすることを計画しているメーカーがあります7,8。Rezence規格は、給電用送信機に高い周波数6.78 MHzが必要であることを考えて、速度が遅くて効率が低いシリコン・パワーMOSFETを上回るeGaN FETの採用に拍車がかかっています9。
図4:ワイヤレス・パワー伝送は、インフォテインメント・システムの一部として、連続使用にもかかわらず、
スマートフォンを充電し続けるために自動車に使われるでしょう7。写真は米Gill Electronics社の提供。
電気自動車の無線充電も、電気で動く車が、もっと大量に生産されるにつれて、もっと利用できるようになります10。まだ統一された規格はありませんが、Rezence®規格で使われる方法と、疎結合された磁気エネルギー伝送は、すべての設計に共通しています。これは、送信機と受信機のユニットを正確に調整しなくても給電できるという能力によります。eGaN® FETは確実に、このアプリケーション向けの良い候補となる技術です
自動車のセンシングと自動運転制御に注目しよう:衝突回避、または「リラックスして運転を楽しむ」:将来は高速化、そして、もっと高速に
安全上の理由から、クルマは、常に、その周りにあるものを認識していることが重要です。これは、クルマが自己運転マシーンに発展すると同時に、より一層不可欠になります。さらに、クルマの速度が速いほど、周辺はより複雑になり、より高速な環境センシング・システムが必要になり、より正確には、潜在的な衝突に対する距離を認識する必要があります。
今日の自動車メーカーは、LiDAR(光による検出と距離の測定)センサーなど、各機能の中でさまざまなセンサーを使っており、最近では、車載センシングを使った自動運転のアプリケーションに搭載し始めています。窒化ガリウム技術を使う車載アプリケーションは、次のFast Just Got Fasterのブログで紹介します。
まとめ
結論として、「モビリティ・インペラティブ」が見えて来ました ―― 現代の消費者の要求は次の通りです。
- バッテリーを使い果たして、「コンセントを探さなければならない」ことへの心配によって引き起こされる探し回る不安を持ちたくない。
- 自分のスマートフォンを介して、常にすべての情報とエンターテインメントを利用したい ―― すべてを高解像度で、そして「今、すぐに」。
窒化ガリウムは、「モビリティ・インペラティブ」の実現性をもたらす基本的な技術です。以下を提供するからです。
- より高い解像度と、より少ない消費電力につながるスイッチング速度の高速化。
- サイズが小さいことによって、製品の小型化、軽量化が可能。
- 安価な製品コストによって、消費者のおカネを有効活用。
消費者は、いつでもどこでも自らが望む「モバイル」を可能にしたい・・・これが、今日のモビリティ・インペラティブであり、民生機器全体のイノベーションを推進しています。
現在の半導体技術であるシリコン・パワー・トランジスタ(MOSFET)は、性能の限界に達しています。幸いにも、生産コストの低減と小型化と共に、高速性能を備えた窒化ガリウム・トランジスタが十分に発達してきています。テスラのビジョンを結実させるのはGaN技術でしょう ―― そして、私たちの「モビリティ・インペラティブ」を実現可能にします。
- A. Lidow, J. Strydom, M. de Rooij, D. Reusch, GaN Transistors for Efficient Power Conversion, 2nd Edition, West Sussex, England: John Wiley and Sons, 2015.
- J. Siu, “Car Buyers Love Wireless Connectivity: Study,” Autoguide.com, May 4, 2014.
- http://www.cisco.com/c/en/us/solutions/collateral/service-provider/visual-networking-index-vni/white_paper_c11-520862.html
- D. McIntosh, “WSC: Innovative Use of enhanced mode GaN power FETS in medium power Envelope Tracking Modulators,” IEEE International Microwave Symposium, Tampa Bay, FL., June 2014.
- R. Tseng, B. von Novak, S. Shevde and K. A. Grajski, “Introduction to the Alliance for Wireless Power Loosely-Coupled Wireless Power Transfer System Specification Version 1.0,” IEEE Wireless Power Transfer Conference 2013, Technologies,Systems and Applications, May 15–16, 2013.
- D. Schilling, “WiTricity Charges Forward with Wireless Electricity,” Industry Tap Into News, January 10, 2013.
- J. Day, “Gill Electronics signs wireless agreement with Qualcomm,” John Day’s Automotive Electronics, June 24, 2013.
- J. Day, “Delphi developing in-vehicle cordless charging,” John Day’s Automotive Electronics, May 1, 2012.
- M. de Rooij, Wireless Power Handbook: A Supplement to GaN Transistors for Efficient Power Conversion, El Segundo, CA: Power Conversion Publications, 2015. (Publication date: March 2015)
- N. Gordon-Bloomfield, “Hertz Tests Wireless Charging For Electric-Car Rentals,” Green Car Reports, February 9, 2012.