GaN技術：
医療への貢献は小さくありません

過去のFast Just Got Fasterのブログでは、窒化ガリウム半導体技術、特にeGaN^®パワー・トランジスタの破壊的な性質を考察しました ―― 今、同等のコストになり、大幅に優れた特性が得られるので、GaNが成熟したパワーMOSFETを置き換えることの必然性が明確になってきています。

このFast Just Got Fasterのブログでは、私たちのみんなに影響する特定の最終用途、すなわち、GaN技術の医療用途への貢献を考察します。GaN技術による無線給電器具を使えば患者が移動しやすくなり、GaN技術による機器の高解像度化によって診断技術が向上します。

医療への応用：序論と概要

電源コードでつながれていないことは、患者と医療従事者の生活が楽になるだけでなく、安全性も向上し、より早く、より効率的に健康を管理することができます。緊急治療室で命を救うために急いで、しかも、静脈内輸液の投与の邪魔になるワイヤーのもつれを気にしながら、パワー・カートを電源コンセントにつなぐといったことの必要がない医療チームを想像してみてください。

患者の視点では、心臓ポンプのバッテリーを充電するために、身体から引き出した感染を起こしやすいワイヤーを使わずに済む状況を想像してみてください。診断方法の世界では、超音波診断装置やMRIのようなスキャンする装置の解像度を大幅に高められることによる効果、さらに、大腸内視鏡検査を行なうために、ピルに埋め込まれた小型化されたX線装置を飲み込めば済むようになることを考えてみてください。

医療の世界へのこれらの改善は、窒化ガリウム技術によって可能になってきています。では、詳しく見てみましょう。

病院で ―― つながれていない緊急カート、コンセントにつながっていないベッドサイドのモニタリング装置、そして、つながれていない患者

私たちは、救急医療従事者が、救命のために素早く誘導している混沌とした状況をよく知っているので、「電源コンセントを探す」必要がなくて容易に入手可能な装置を持つことの利点を理解することができます（図1参照）。

患者のベッドサイドでさえ、電源コードは歓迎されません ―― 機器の移動を容易にし、重要な機器の偶発的なプラグ抜けを回避し、電気的ショックの危険性を低減し、細菌が繁殖する可能性を低減します。ワイヤレス・パワー伝送の出現が、医療カートや、ベッドサイドのスタンドの無線化を実現可能にします。

ワイヤレス・パワー伝送の進化は、エレクトロニクス業界全体の動きです。米ヒューレット・パッカード社、米インテル社、米テキサス・インスツルメンツ社、韓国サムスン電子、米Witricity社などの業界のリーダーは、消費者とコンピューティング機器のコンソーシアム（A4WP）を設立しました。この技術は、6.78 MHzと13.56 MHzの両方の周波数を使っている病院の環境に適用可能です。利便性に加えて、無線電力は、安全性を向上し、患者の周りのケーブル配線を排除することによって価格が下がります。

患者にとって：心臓ポンプ、ペースメーカ、筋肉や神経への刺激機器、電動車いすの充電

ワイヤレス・パワーが利用可能になると、緊急治療室で機器カートを電源コードにつながなくても済むことに加えて、患者が寝たきりでも、より快適になり、歩行できるなら移動の自由度が高まります。

同様に、患者が電動車いすを使わなければならない場合、バッテリーを充電する必要があるときは、プラグをコンセントにつながずに、「運転しながら」バッテリーを充電できるマットを実現できます。電気自動車と同様に、電動車いすは、無線で結合されたマットの上を走り回るだけで簡単に充電することができます。この車両の充電技術は今、電気自動車やバスを運転しながら充電できる充電器として稼働しています。

GaN技術によって可能になるワイヤレス・パワー伝送は、患者に直接、応用できるものがたくさんあります。図2は、開発中の臨床試験において、大きく影響する応用の一部を示しています。これらのアプリケーションには、心臓モニターや神経刺激器もあります。電源に「プラグを差し込む」ためにワイヤーを身体から引き出す必要がなくなることで、感染への危険性が高まるといったことがない無線充電は、便利なだけでなく、患者にとって安全です。

診断：MRI、大腸内視鏡検査

解像度は、超音波診断装置、CATスキャン（コンピュータX線体軸断層撮影）、MRI撮像などを含むすべての医療用スキャン装置の重要な特性です（図3参照）。機器メーカーは、スキャン測定を実施することができる速度と精度を高めるためにeGaN^® FETが利用できることを非常に喜んでいます。MRIシステムの場合、eGaN^® FETは、熱によって制限される電源やパワー・アンプ向けに非常に大きなRF電力が要求される給電機能に使われています。小型で高効率なeGaN^® FETによって、この給電機能は、高速に撮像するための効率的な大電力能力を実現できるので、患者の近くに配置できます。この高速撮像によって、同じ時間で、より多くの高解像度画像スライスを得るか、または、より効率的に装置を使用するためにスキャン時間を短くするか、のいずれかを選ぶことができます。

受電コイルは、患者に直接接触して配置され、熱によって制限されています。これらのコイルを給電時に離調し、受電時に同調するために、シリコン・ベースの部品をeGaN^® FETに置き換えると、消費電力の大幅な削減になり、より高密度の受電マトリックスを許容できます。より高解像度の画像が得られるので、同じ空間内でより多くの情報を提供します。このように、医療の専門家は、より正確な画像が得られ、患者は、診断技術の向上の恩恵を受けられるでしょう。

おそらく、eGaN^® FETの極めて小さなサイズによって可能になる最も革新的な医療用途は、「大腸内視鏡検査ピル」です（図4参照）。このピルには、小型X線装置が内蔵され、飲み込んだ（事前に下剤などで洗浄する必要ありません！）後、患者の消化器系を通過するときに、腸管の3次元画像を生成します。

スキャンした画像は、患者の上に配置された受信装置に無線で送信されます。いったん、ピルが患者の身体を通過したら、医師は、受信装置に保存されたデジタル情報を分析することができます。従来の大腸内視鏡検査のように、一晩の不快な準備をしなくてもよいことを想像してみてください！　この「ピル」と手順は、EPCの顧客である米Check Cap社の実績であり、現在、欧州当局の試験を受けており、2016年の最終評価に向けて順調に進行しています。

eGaN^® FETは、医学のコスト曲線の変化に大きく貢献しています。

結論：医療用途でのGaN技術

半導体の世界では、技術的な破壊が進行しており、医療用途では、高性能eGaN^®パワー・トランジスタの優位性を活用でき、集積回路が近々登場します。Fast Just Got Fasterのこのブログでは、医療の質を向上する応用を説明しました：

• 患者への対処が、より迅速で容易になると同時に、細菌が蔓延しにくいカートで移動できる救急機器など、すべての重要な「医療カート」をコードで縛らなくても済みます。
• 心臓ポンプや神経刺激器に電力を供給するために患者の身体から引き出す感染症が発生しやすい「ワイヤー」を使う必要がありません。
• MRI装置のような身体をスキャンする装置の解像度の向上は、低コストで患者の状態に関する正確な情報を与えます。
• 「大腸内視鏡検査ピル」などの新しい診断手段の導入は、患者のための医療処置を容易にし、コストを削減し、医師には、より正確な重要情報を与えます。

結論として、GaN技術は、医学の進歩に大きく貢献しています。