重要なポイント
- GaN技術の革新は、通信機能を備えた「コネクテッド・カー」の重要な部分です:
- — インフォテインメント:センター・コンソールは、スマートフォン(スマホ)に引き継がれています。スマホの充電池を維持できないので、電源コンセントにつながなければなりません。GaNトランジスタは、クルマでのワイヤレス・パワー伝送を可能にするので、電源コードをなくすことができます。
- — 安全性:自動車のセンシングや自動制御が、回避制御システムと共に、安全運転につながっています。
- — 電気駆動:電気自動車の推進は、「化石燃料からの解放」への道を後押しします。
- 窒化ガリウム・トランジスタは、eGaN®FETの費用対効果が最適な多くの市場、すなわち、自動車に加えて、通信、ワイヤレス・パワー伝送、コンピューティング、医療などの市場で急速に広がっています。
コネクテッド・カー用のGaN技術
GaN技術は、かつては不可能と考えられていたものを可能にし、最高という意味の言葉で、破壊的です ―― eGaN®技術は、10倍速く、非常に小型で、シリコン・ベースのMOSFETと同等のコストで高い性能が得られます。Fast Just Got Fasterの前回のブログでは、医療用途における窒化ガリウム半導体技術の破壊的な性質を説明しました。そして、GaNは、今、同等のコストで大幅に高性能になり、成熟したパワーMOSFETを置き換える必然性が高まっています。ほとんどの既存のアプリケーションで支配的になることが明確になってきており、新しいものを可能にします。
Fast Just Got Fasterのこのブログでは、自動車用途へのGaN技術の貢献に焦点を当てます。すなわち、ますます複雑化するインフォテインメント・システム、すべての重要な安全システム、および、電動自動車の出現についてです。
車載アプリケーション:序論と概要
自動車産業は、クルマの車内を「生活空間」と考える傾向を理解し、完全にモバイルなライフスタイルの将来ビジョンを示し始めています。センサーとコンピュータが、安全性を向上するために搭載されると同時に、ダッシュボードは、スマートフォン(スマホ)によって引き継がれています。私たちのクルマは、長期的な目標に向かって動いており、完全に電気化する途上にあります。そして、それらにパワーを供給するために必要な化石燃料の使用量を削減しています。
図1:自動車における電子アプリケーションには、インフォテインメント、安全性、電気駆動などがあります
この傾向に共通する点がいくつかあります。それらはすべて、電池を搭載し、センサーに大きく依存し、そして、無線通信を利用しています。この結果、センサーの高速化、無線の広帯域化、そして、私たちのクルマの中で、スマホなどの電子機器への絶え間ない充電から、いつか私たちを「解き放つ」助けとなるであろう何か、に対するプレッシャが大きくなっています。
では、詳しく見てみましょう。
インフォテインメント:スマホと車内全体にわたるワイヤレス・パワー
移動性は、消費者の主要なテーマとなっています。スマホによって、私たちは、いつでも、音楽、ゲーム、映画、テレビ番組、連絡、および、「インターネット」を得ることができます ―― たとえ自動車の中でさえも! 例えば、Googleマップなどのアプリケーションは、私たちに方向や交通情報を教えてくれ、目的地の地図や衛星画像を提供してくれます。私たちは、クルマが、スマホ、タブレット端末、ノート・パソコン、デスクトップ・パソコンと完全に連携して欲しいと思っています。
ワイヤレス・パワー伝送は、私たちの電子機器の電池駆動を可能にする急に出現した技術で、自動車のインフォテインメント・システムによって拡大した需要に追いつくことが可能です。この最新の技術は、有線の充電器と同様の効率で、給電ユニット(PTU)と接触せずに、複数の機器の無線充電を可能にします。
スマホ自体が、ダッシュボードのインフォテインメント・センターの情報受信部とルーター役割を果たすようになってきているので、クルマの中におけるスマホの無線充電が、より重要になってきています。自動車メーカーの中には、AndroidやiOSがダッシュボードとシームレスにインタフェースできるオペレーティング・システムの標準を採用しており、このとき、運転者や他の乗員のスマホが情報やエンターテインメントを利用するための「子機」となります。
韓国のサムスン電子、米クアルコム社、米インテル社、およびEPC社などのエレクトロニクス業界のリーダーによるコンソーシアムによって開発されたワイヤレス・パワー伝送規格Rezence®は、スマホやタブレット端末の充電用途で急速に普及してきています。この規格を実装するために、自動車メーカーの中には、クルマのセンター・コンソールの中に組み込む無線充電ステーションの開発を進めているメーカーがあり、自動車が動いている間、スマホや、この他のモバイル機器を、激しい連続使用にもかかわらず、充電し続けることができます。
図2:ワイヤレス・パワー伝送は、インフォテインメント・システムの一部としての連続使用にもかかわらず、スマホを充電し続けるために、自動車で使われるでしょう
Rezence規格が、電力伝送のために6.78 MHzの基準周波数を使っていることを考えると、成熟したシリコン・パワー・デバイスを背伸びさせて使うことになり、モバイルと車載の両方のアプリケーションでは、遅くて効率が高くないシリコン・パワーMOSFETよりも、GaN技術が非常に好まれて採用されています。
自動車業界の先見の明のある設計者の中には、機器を充電するためにワイヤレス・パワー伝送技術を利用するという枠を超えて、車全体のワイヤー・ハーネスを削減または除去するために、この技術を利用する方法を模索している人がいます。これによって、コスト、重量、および火災の危険性を低減できます。
自動車の車内で無線充電が一般的になることに加えて、完全な電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車を充電するために利用できるようになってきています。単に、あなたのガレージの床に、給電機器としての「充電マット」を置けば、マットの上にクルマを駐車して、降りて出て行くだけです。つまり、「コンセントに車を接続する」必要がありません。
安全性:センシングと自動制御
安全性を確保し、衝突を防止するためには、自動車は常時、周囲に気を配ることが大切です。自動車が高速のとき、「状況認識」システムがより迅速に検出する必要があり、正確には、潜在的な危険との距離を判断する必要があります。
今日、自動車メーカーは、超音波センシング、マイクロ波の短距離レーダー、映像のパターン認識などの安全関連機能に、さまざまなセンサーを使っています(図3参照)。最近では、LiDAR(光による検出と距離の測定)が自動車のセンシング用途に使われ始めています。
図3:クルマは、周囲を認識し、衝突を避けるために、多くの異なる種類のセンサーを使っています。ごく最近では、さまざまな検出機能向けの低コストで効率的な手段として、LiDARが出現しています。
私たちは、自動車での幅広い採用を予想していますが、最初に、LiDARセンサーは、米グーグル社やフィンランドのノキア社が買収した米NAVTEQ社(その後、米マイクロソフト社が買収)のBingなどによって、景観マッピングやナビゲーション・ソフトに使われる3次元デジタル地形図を生成するために使われました。LiDARは、解像度を向上するために光の速度で追跡するので、シリコンMOSFETのスイッチング速度を約10倍上回る優位性を備えたeGaN®パワー・トランジスタが、これらのモバイル・アプリケーションでほぼ独占的に使われています。
eGaN®FETを使うと、撮像速度と分解能が非常に優れているので、自動運転車の実験をしているメーカーは、運転者のいないナビゲーション・システムのために、同様のLiDARセンサーを使っています。さらに、中には、一般的な衝突回避と死角検出のために、自社の自動車にeGaN®FETベースのLiDARセンサーを組み込んでいる自動車メーカーもあります。検出とガイダンスのシステムを「運転者のいないクルマ」に使えるので、LiDARには、非常にエキサイティングな未来があります。
電気駆動:化石燃料から自動車を解放
図4:さまざまな技術が適用される可能性が最も高い電流と電圧の範囲
必然的な進化 ―― 内燃機関から、ハイブリッド車、プラグイン・ハイブリッド車へ、そして、最終的には、完全な 電動自動車へ ―― これは、GaN技術にとって非常に大きな潜在的な市場です。この電力への需要は、電気モーターが扱う推進力の量に比例して拡大します。例えば、米テスラモーターズ社のModel Sは、416馬力、電力では310 kWを後輪に供給します。自動車を前進させるために大きな電力を供給するということは、モーターの巻線に流れる電流レベルを最小の導通損失で維持するために、より高い電圧が必要になります。今日、電気自動車またはハイブリッド車の推進システムにおいて、最も使われているトランジスタは、耐圧500 V~1200 Vの絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ(IGBT)です。
一方で、炭化シリコン(SiC)技術か、GaN技術か、のいずれかを使って作ったワイド・バンドギャップ(WBG)のトランジスタは、この大電力アプリケーション向けに非常に有望です。はるかに高い温度で動作する能力を備え、低いスイッチング周波数でも高効率だからです。
図4は、IGBT、GaNトランジスタ、SiCトランジスタなどの異なる種類のトランジスタによって得られる最高レベルの電力と電圧を示す概念図です。電動モーター駆動の要件は、GaN、SiC、IGBTの各技術の境界にあります。最終的には、電気駆動システムのコストと信頼性が、このアプリケーションの勝者を決めますが、今のところ、それを決めるには早すぎます。
結論:コネクテッド・カー向けGaN技術
GaN技術は、自動車業界に向かって動いています!
2013年に、全世界で6500万台のクルマが製造されました。これは、顧客の自動車の体験を向上させることができ、任意の技術に巨大な潜在市場を提供します。インフォテインメントのモビリティには、LiDARセンサーによって可能になる無線充電と自動運転車を介して、今後数年間で自動車の世界に現れる2つの領域があります。このアプリケーションは2つとも、GaNトランジスタの高速化と低コストに依存しています。
将来的には、電気自動車がもっと受け入れられ、よりユビキタスになるにつれて、パワー・トレインのモーター制御は、GaNトランジスタの巨大な市場になる可能性を秘めています。 GaN、SiC、IGBTといった競合する技術への課題は、コストでしょう。
自動車産業は、技術的な破壊を受けており、高性能窒化ガリウム技術の利点を生かしています。GaNデバイスは、上述したいくつかの領域で登場していることから明らかなように、将来的には、さらに有望とみられ、続々と増え続けるシステムの中に登場しています。
- インフォテインメント:電話やGPSシステムなどの電子機器に無線で電力を供給できます
- 安全性:LiDARによる検知や自動車の自動制御は、より正確な回避制御システムと共に安全運転につながります
- 電気駆動:電気自動車の推進が「化石燃料からの解放」への道を後押しします
- 自動運転車:LiDARによる検知や電子制御システムが利用可能であり、世界中でテストされています
窒化ガリウムは、電力変換に利用される基本的な材料としてシリコンを置き換えています。そして、単にパワー・トランジスタだけでなく、アナログやデジタルの集積回路でもシリコンを置き換えることが確実です。EPCは、パワー・トランジスタ、アナログIC、およびデジタルICの半導体市場を合わせたこの3500億米ドルの市場を狙っています。その理由は、簡単です。つまり、GaN技術がMOSFETよりも、高速、小型であり、そして今、価格競争力があるからです。