重要なポイント
- 大きな技術革新に挑戦した半導体企業は、売上高の成長を「買」っています:過去2年間で10件の大きな合併と買収(M&A)がありました。
- 半導体は、80年代の「いけいけどんどん」から、2000年代には「スロー・スロー」になっています。
- ムーアの法則の終焉は、トランジスタの小型化の行き詰まりとして始まりましたが、生産コストが高くなりました。
- 窒化ガリウム(GaN)は、ムーアの法則を復活させる可能性を秘めており、70年代や80年代の成長率への復帰に貢献しています。
チップ業界におけるM&Aフィーバ、
GaN技術の成長、なぜそれが問題なのか
半導体産業におけるM&Aフィーバ
一般的に、拡大する産業が活況を呈している場合、買収や統合のレースは、通常は反対側の現象で、いったん高度飛行の範疇に入ると、成熟期の緩やかな成長の期間になります。多くの産業は、スターダムの期間を経験し、その後の急激で確実な減少期へと続きます。社会経済の活力の基本となる中心的な産業でこれが発生した場合、私たちは非常に憂慮しなければなりません。
表1:2013年8月から2015年5月までの半導体業界の合併と買収
半導体産業を見てみると、ここでは過去20カ月間に、米アバゴ・テクノロジー社による米ブロードコム社の買収、米インテル社による米アルテラ社の買収、独インフィニオン テクノロジーズ社による米インターナショナル・レクティファイアー社の買収など、ビッグネームのブランドを含む少なくとも10件の大型の合併と買収がありました(表1参照)。
さらに、半導体産業全体で、1980年代には年平均成長率(CAGR)が22%だったことと比べて、2000年以降は、わずか5%成長です(図1参照)。半導体は、80年代の「いけいけどんどん」から、より落ち着いた成熟産業の成長率に移行しています。つまり、製品の革新からの明るい光がますます少なくなりました。しかし、半導体産業の縮小が、技術産業全体の大きな問題を示しているのでしょうか?
図1:1980年から2014年までの半導体産業の売上高と年平均成長率(CAGR)。出典:米国半導体工業会
ムーアの法則の終焉
この統合のレースは、私たちが知っているムーアの法則の終焉と同時に起こっていることと偶然の一致ではありません。ムーアの法則は、費用と性能の両方で勢いを維持するために、トランジスタ・サイズの継続的な縮小に依存しています。今日、50年前に提唱されたこの大胆な予測の実現は、より高い性能か、より低価格か、のどちらか、あるいは、両方を命題にするようになっています。
図2:ムーアの法則は、費用と性能の両方で勢いを維持するために、トランジスタ・サイズの継続的な縮小に依存しています。出典:米Linley Group社の予測
この問題は、約20年前に顕在化し始めました ―― トランジスタのサイズを縮小し続けるにつれて、それらを製造するためのコストが莫大になりました(図2参照)。設計、パッケージング、テストなどのその他のコストも次第に上昇しており、シリコン・ベースの高度なデバイスを開発するための全体の費用が、今、数1000万ドルから数億ドルになり、十分な資金を持った確立した企業でなければ手が届かなくなっています。
なぜ、それが問題なのか
新しいチップは、半導体産業成長のための燃料であり、コストが次第に上昇するにつれて、新しい半導体の数(そして、その革新への寄与)が減少しています。しかし、それは、この新しい現実に負けそうなチップ企業だけではありません。業界の先覚者は、ムーアの法則が飛散していることが、私たちのみんなが慣れている技術革新と進歩を妨げているようだ、と予測しています。仮想現実メガネ、ワイヤレス・パワー、自動運転車、5Gモバイル通信、高度な医療機器など、企業と消費者が期待する多くの機器やアプリケーションを危うくしています。
図3:最小加工寸法に対する新製品の開発コスト。出典:米International Business Strategies社
費用と性能の関係が弱まることは、シリコン・チップに潜在する3つの傾向です:(1)一般的には半導体の最終市場における成長が鈍っていること、(2)新しいチップを開発するためのコストが高くなっていること、(3)製品の新しい世代を生産する工場を建設するために必要な設備投資が大きくなっていることの3つです(図3参照)。
*2015年6月4日の時価総額
表2:売上高に対する時価総額、および売上高成長率に対する設備投資の比較。出典:米Google Finance
これが分かれば、最近、チップ業界で多くの統合が行われている理由が明確になります:大規模な半導体メーカーの多くにとって、新製品を開発し製品化するために、新製品や工場に投資するよりも、単に既存の売上高を買収する方が、リスクが小さいということです(表2参照)。業界の「パイ」である総市場規模は、比較的固定されているので、技術革新からの有機的な成長は、非常にコストがかかることに加えて、リスクも高いということです。
イノベーションの元となる源泉:新製品開発の費用対リスクの比が芳しくなく、活気のある成長の見込みがあまりないので、利用可能なベンチャー・マネーは少なく、チップ業界におけるベンチャー出資の起業は、ほとんどなくなってきています(図4参照)。
図4:2000年以降の半導体産業におけるベンチャー・キャピタルの投資の減少。出典:米Dow Jones VentureSource VentureWire
起業は、多くの場合、技術産業における技術革新の最大の源なので、残念ながら、これは、消費者にとって良いニュースではありません。これらの指標を考慮すると、半導体業界の進歩は、遅々としたままで、ムーアの法則から、はるかに、はるかに遠くへと遠ざけます。
かすかな光:GaN技術の成長
しかし、いくつかの例外を見つけることができます。窒化ガリウム(GaN)や炭化シリコン(SiC)などのシリコンの代替物は、半導体産業が1970年代や1980年代に謳歌した財務指標に元気に復帰できる可能性を秘めています。特にGaNは、急成長期に差し掛かっています。この成長は、性能が低いシリコン・デバイスの置き換えと、GaNの優れた性能で可能になる新たに出現したアプリケーションの両方に由来します。これらのアプリケーション、すなわち、私たちの生活をより便利にするものから、人生を変える影響を持っているものまでが、私たちが慣れている技術の進歩の鍵となります。
ここ2年間の憂慮すべき事案を考えると、私は、統合ではなく、技術革新の周りに結集するために、半導体産業やベンチャー・コミュニティが一体となるべき時だと思います。このことを念頭に置けば、製品開発を燃料とし、ゴードン・ムーアがちょうど50年前に予測した速度で進歩を推進することができるだろうと思います。