電力変換の世界では、シリコンは、燃料が切れており、窒化ガリウム技術が躍進しています。窒化ガリウムは、高速なスイッチング速度、小型サイズ、高効率化を実現し、今では低コスト化を実現します。GaNの多くの利点に加えて、窒化ガリウム市場、そのさまざまな用途、そして絶えず発展するGaNの未来を理解することが重要です。GaNが私たちの生活をどのように変えているかを知りましょう。
窒化ガリウムは、シリコンを置き換えることができますか?
GaNベースのパワー・トランジスタと集積回路が最初に採用されたのは、MOSFETの約10倍、IGBTの100倍高速にスイッチングできるGaNオン・シリコンのトランジスタの能力を利用した用途でした。4G/LTE基地局のRF包絡線追跡や、自動運転車、ロボット、ドローン、セキュリティ・システム向けのlidar(光による検出と距離の測定)システムなどのアプリケーションは、GaN の高速スイッチング能力を最大限に活用した最初の大量用途でした。
これらの初期のアプリケーション以来、生産量は拡大し、現在、GaNパワー・デバイスは、同様のオン抵抗のMOSFETと同等の価格に達しています。これによって、データセンターやコンピューティング用の48 VのDC/DC変換、イーモビリティ、ロボット、ドローン向けのBLDCモーター、大量生産の自動車用途など、従来の用途で窒化ガリウム・ベースのソリューションをより採用できるようになりました。
炭化ケイ素(SiC)と比べた窒化ガリウム(GaN)の利点は何ですか?
GaNオン・シリコンと炭化ケイ素(SiC)は、いずれも、シリコン単体よりも高電圧、高周波、より集積度の高い製品が可能なワイド・バンドギャップ半導体のソリューションです。これらの要因によって、エレクトロニクス市場全体で炭化ケイ素と窒化ガリウムが広く採用されるようになっています。SiCは、900 V以上の高電圧用途に最適です。GaNオン・シリコンは、700 V以下の用途に適しています。GaN、SiC、シリコンIGBTの激戦区は、電気自動車用の電気駆動のほとんどが設計されている700 V~900 Vの用途です。
窒化ガリウム市場の見通し
市場調査会社の仏Yole Développementは、パワー窒化ガリウム・デバイス市場は、2021年の1億2600万米ドルから2027年には20億ドルに成長し、年平均成長率(CAGR)は59%になると予測しています。
この成長のかなりの部分は、急速充電器、D級オーディオ、パワー・バンク、スマートフォンやタブレット端末の飛行時間センサーなどの民生用電子機器市場によって牽引されるとみています。これらのアプリケーションで、GaNは、より高い電力密度、より優れた熱特性、より小型・軽量のソリューションを提供します。
高電力密度コンピューティングと車載用DC-DCコンバータの両方における48 V電源システムへの統合が、通信/データ通信と自動車/モビリティの両方の分野の成長を牽引しています。48 Vシステムは、データセンターの消費電力を削減し、これらのシステムの需要では、シリコンよりもGaNが好まれます。
再生可能エネルギーの導入が加速するにつれて、太陽光発電のマイクロインバータ、オプティマイザ、エネルギー貯蔵システムのメーカーは、より高効率、より高い電力密度、信頼性の向上のためにGaNを使った設計を増やしています。独BRC Solarや独Solarnativeなど、いくつかのメーカーがGaNベースのソリューションを発表しています。
GaNが新しいアプリケーションをどのようにサポートするか
データセンターのサーバー
クラウドの成長に伴って、エネルギーの主な消費源であるデータセンターも同様に成長を余儀なくされています。エネルギー損失を削減する1つの手段は、データセンターの入力から最終負荷点(POL)まで電力を集中させるときに、電力変換の段階の全体を排除することです。一般に、電力は2段階で変換されます。すなわち、バック・プレーンの48 Vから処理基板上の分配のための12 Vに変換し、最終的にデジタル・チップに電力を供給するために、実際に電力が使われる点で約1 Vに変換します。GaNの高速スイッチング速度、小型サイズ、高効率によって、電源設計者は、12 Vの中間点を使わずに、48 Vから負荷点で必要な1 V程度に直接変換できるようになりました。クラウド・インフラストラクチャをサポートするために必要なコンピューティング・パワーとデータセンターの急速な拡大を考慮すると、この1段のアーキテクチャによる潜在的なエネルギー節約は膨大です。
自動運転車/拡張現実AR
非常にエキサイティングで未来を垣間見ることができるGaNアプリケーションの1つは自動運転車です。右側の画像をよく見ると、クルマの上部にあるLidar(光による検出と距離の測定)システムがクルマの「目」の役割をしていることが分かります。Lidarデバイスは、光ビームを迅速に走査して発射し、ビームが戻ってくるまでの時間と発射された方向を記録することで、クルマの周囲にある対象物の360度の3次元画像を作成します。レーザー・ビームの送信速度が速いほど、Lidarが検出する対象物のマッピングや位置の解像度が高くなります。Lidarシステムの中核では、GaN技術が重要な役割を果たします;これによって、同等のシリコン部品よりも高速でレーザー信号を発射することができます。
同様のLidar技術が拡張現実ヘッドセットに組み込まれており、ユーザーに3次元のリアルタイム画像を提供します。私たちが現在、目にしているように、拡張現実はゲームでの使用を超えて、兵士に遠く離れた敵を目の前に立っているかのように見せる能力も提供します。敵陣の背後からの画像は、Lidarを搭載したドローンで撮影されています。民間人にとっては、拡張現実ヘッドセットを使って、世界中のどこにいても3次元のリアルタイム画像にアクセスできます。

最先端のロボットもLidarを利用しています。Lidarは高速かつ正確なので、3次元デジタル画像の作成に必要な計算量が少ないため、これらのロボットは、Lidarを「目」として使います。
放射線耐性と宇宙
窒化ガリウム・デバイスは宇宙に存在できます。窒化ガリウムは、本質的に放射線耐性があるため、多くのGaNの用途にとって必然の領域です。半導体を放射線の影響から守るために特別な製造技術と特別なパッケージが必要なシリコンとは異なり、GaNの本質的な特性によって、比較的、これらの有害な放射線の影響を受けません。
GaNトランジスタは、衛星のソーラー・パネルからの電力を変換するためのイオン・エンジン、小型人工衛星CubeSatで使われるリアクション・ホイールを駆動するための耐久性の高い高精度BLDCモーター、宇宙ミッションで使われるロボットや自動計測器、およびLidarで使われる距離の測定用途に使われています。GaNデバイスは、過酷な環境でも耐えられる能力に加えて、サイズが小さく効率が高いため、宇宙用途での使用にとって非常に魅力的です。
モーター駆動
エレクトロモビリティ(イーモビリティ)に対する需要の高まりによって、高効率で小型なモーター駆動が要求されています。GaN FETとICによって、サイズ、重さ、コストを削減すると同時に、モーターの効率を向上させるインバータの設計が可能になります。これによって、モーター・システムの小型・軽量化、騒音の低減が可能になり、トルク、範囲、精度が向上します。これらの利点によって、電動自転車や電動キックボード、掃除機やドローンなどのパーソナル・ ロボット向けに、より小さく、より軽く、より高効率なモーター・システムを生み出すことができます。
再生可能エネルギー
再生可能エネルギー源の導入を加速するには、長期的な信頼性を犠牲にすることなく、より高効率な変換、エネルギー貯蔵容量の増加、コストの削減を達成する必要があります。GaNベースの電源ソリューションによって、太陽光発電用のマイクロインバータ、オプティマイザ、および太陽光発電に使われるエネルギー貯蔵システムの効率が向上し、サイズとコストを削減すると同時に、比類のない耐久性を実現できます。
医療技術
GaNは、医療用途において重要な役割を果たしており、私たちは革新的なソリューションの発見と実装を始めたばかりです。GaNトランジスタを使ったワイヤレス・パワーは、糖尿病患者に必要な心臓ポンプや疼痛シンチレータなどの埋め込み型医療機器の充電に使えるため、感染を引き起こしやすい体内からのワイヤーの引き出しが不要になります。
もう1つの良い例は、錠剤サイズに収まる非常に小型のX線装置でのGaN部品の使用です。この錠剤は、結腸内視鏡検査をするために使われます。これを摂取すると、錠剤が消化管を通過するときに画像が撮影されます。X線装置からのデジタル情報は、医師による評価のために患者の体外の受信機に無線で送信されます。患者にとっては、検査が簡単になることを意味します。医師にとっては、結腸の高解像度画像が得られることになります。この用途では、GaNの極めて小さいサイズと高いスイッチング速度が、この錠剤内のX線装置に電力を供給するための鍵となります。
MRI(核磁気共鳴画像)装置もGaNの優れた性能を利用すれば、10~100倍高い分解能を得ることができるため、がんやその他の疾患を、より早期に、より正確に、より低コストで発見できるようになります。
ワイヤレス・パワー
ワイヤレス・パワーの出現は、GaNによって実現されるもう1つの注目すべき用途です。もはやコードは、いりません ―― コードを切断できます。無線充電の携帯電話が市場に出回っており、タブレット端末、コンピュータ、さらにはモバイル・カートに搭載された医療機器さえも遅れを取っていません。自動車のセンター・コンソールは、携帯電話を無線で充電するための電源となるだけでなく、間もなくクルマのインフォテインメントやナビゲーション・システム全体を充電するための電源にもなるでしょう。最終的には、家全体に送信機と中継器を設置して、照明、テレビ、その他の家電製品に無線で電力を供給することができます。GaNトランジスタは、このエキサイティングな急速に出現したアプリケーションをサポートしており、私たちの生活様式を変えています。
GaNの未来
技術としてのGaNは、まだ始まったばかりであり、シリコン・デバイスが身の回りで70年以上存在してきたことに比べれば、ここ数年で商業的に利用可能になったばかりです。そして、ここで示したように、GaNの優れた効率、スイッチング速度、サイズを活用したアプリケーションがすでに登場しています。GaN技術が学習曲線を登り、その最終用途がさらに広がり、性能が年々向上するにつれて、将来は約束されています。