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プロフェッショナル・オーディオにおける窒化ガリウム:早期導入からシステム・レベルの利点へ

プロフェッショナル・オーディオにおける窒化ガリウム:早期導入からシステム・レベルの利点へ

2 18, 2026

プロオーディオ業界では従来、新しい半導体技術を評価するときに、信頼性、予測可能な寿命、製品の長期的な安定性を重視してきました。この結果、新しいデバイス・プラットフォームは、その電気的性能と耐久性が十分に理解された後に採用されることが一般的です。

このような背景から、独InnosonixのCEO(最高経営責任者)で共同創立者であるMarkus Bätz氏は、窒化ガリウム(GaN)がプロのオーディオ界で広く議論された数年前、2020年に早くもシリコンからGaNパワー・デバイスへの移行を決定しました。


Markus Bätz、独InnosonixのCEO(最高経営責任者)で共同創立者

早期の採用とEPCのパートナーシップ

「当時、私たちは、チャネル当たり約50~300 Wの中低出力のプロ用アンプ向けの新しいプラットフォームを探していました。±60 Vレールでうまく動作するデバイスが必要で、その時にEPCの150 Vデバイスを見つけました。EPC2059は、電気的にほぼ完璧に適合しました」とBätz氏は語りました。

その後、技術の転換だけでなく、アンプ設計へのアプローチ方法も変わりました。多くの従来の半導体ベンダーとは異なり、EPCは、データシート、アプリケーション・ノート、詳細な信頼性レポートを公開しました。

「すべてがオンライン化され、すべてが文書化されていました。私たちのような小さな会社にとって、それは非常に重要でした」とBätz氏は語りました。

このオープン性とEPCのエンジニアリング・チームによる直接的なかかわりによって、多くのオーディオ・メーカーがまだ躊躇していたときに、GaNを採用するために必要な自信が生まれました。

D級オーディオにおけるGaNの技術的利点

高性能D級オーディオでは、スイッチング・デバイスの選択が主要な音質指標に直接影響します。eGaN FETは、シリコンMOSFETに比べて、いくつかの重要な利点を提供します:

  • 導通損失の低減
  • スイッチング遷移の高速化
  • 逆回復電荷ゼロ
  • 所望のオン抵抗に対して大幅に小さいゲート電荷量
  • 出力容量の大幅な低減

これらの特性によって、設計者は、PWM(パルス幅変調)周波数を高くでき、デッドタイムを短くし、出力段における理想的なデジタル・パワー波形に近づけることができます。この組み合わせによって、伝播遅延、デッドタイム、ダイオードの回復効果によって生じるオープン・ループ歪みが低減されると同時に、より大きなヒートシンクを必要とするスイッチング損失も削減できます。

オン時およびオフ時の遅延の短縮と急峻なエッジによって、THD+N(全高調波歪率+雑音)の低減と過渡相互変調歪み(T-IMD)の低減が実現され、全体的なフィードバックも軽減されます。EPCが公開しているリファレンス・デザインでは、GaNベースのD級段を使って、THD+Nが0.005%以下、SNR(信号対雑音比)は120dB以上を実現しています。

Innosonixの成功の根底にあるものは、実世界における特性を重視したエンジニアリング哲学です。GaN技術は、単に1つのパラメータを改善しただけでなく、設計アプローチ全体を変革しました。

「主な利点は、大きな損失なく、より高いスイッチング周波数で動作できることです。これによって、サイズを小型化し、効率を高め、ループ特性を向上させることができ、音質向上につながります」とBätz氏は述べました。

全高調波歪み(THD)の改善は中程度でしたが(設置したスピーカの品質が音質を支配することが多いため)、効率、熱管理、密度の向上は顕著でした。

設計上の選択とトレードオフ

この設計戦略では、GaNデバイスの非常に低い出力容量と実質的にゼロの逆回復電荷を活用し、導通損失よりもスイッチング損失の最小化を意図的に優先しています。このアプローチは、ピーク電流が短時間で平均熱負荷が比較的軽度であるオーディオ信号の高いクレスト・ファクタ(波高率)特性に適合しています。

「オーディオの波高率は非常に高いため、導通損失のみを最適化することは意味がありません。スイッチング損失が支配的なので、EPC2207のようなデバイスは実際には、全体的な特性が優れています」とBätz氏は説明しています。

この結果、EPC2207は、低電力チャネルの有力な選択肢となり、EPC2307は、キロワット規模の大電力設計をサポートするようになりました。

ただし、GaNデバイスの本来の速度は、慎重な管理が必要です。「実際には、ゲート抵抗を追加して、デバイスの速度を少し落とす必要がありました。そうしないと、スイッチングのエッジがアナログ変調器に悪影響を与えてしまいます。最終的には、システム全体を正常に動作させるために、本来の速度をある程度犠牲にせざるを得ませんでした」とBätz 氏は語りました。

もう一つの意図的なトレードオフはデッドタイムでした。デッドタイムを最小化したハード・スイッチングは、歪み率を改善できたかもしれませんが、アイドル時の損失が、大幅に増加してしまいます。アイドル時の消費電力の方がはるかに重要でした。優れたデータシートだけでなく、環境に優しいソリューションを求めていました」とBätz氏は語りました。

プリント回路基板の統合に関しては、最近のプロジェクトにおいて、チップスケール(ウエハー・レベル)のパッケージからQFN派生品への移行が進み、アセンブリが簡素化され、熱機械的な耐久性が向上した一方で、高速でクリーンなスイッチングに必要な低寄生インダクタンスが維持されています。ステンシル設計、はんだペースト量、熱サイクルの振る舞いに関するEPCのガイドラインは、高い長期信頼性を実現するために不可欠です(図1)。

EPC9192 Evaluation Board
図1:EPC9192:EPC2307を使った2×700 W/4ΩのD級アンプ評価基板

システム・レベルの利点と市場

現在、同社のポートフォリオにあるすべてのアンプ製品は、GaNベースであり、例えば LP²シリーズは、単一の1Uラック(高さ約44.45 mm(1.75インチ)×幅19インチ(約482.6 mm)の筐体で32のアンプ・チャネルを提供します。これは、シリコンでは実現が非常に難しいレベルの密度です。

「この密度は、あれば良いというものではなく、まさに価値提案そのものなのです」とBätz氏は説明しました。全チャネルがアクティブな状態でも、アイドル時の全消費電力は100 W以下に抑えられ、放熱と冷却の必要性が大幅に軽減されます。

この機能によって、新たな市場が開拓されました。個人用高級ヨット、高級住宅、大型シアターなど、チャネル数が多く、スペースが限られた環境が、主要な応用分野として浮上しました。「ヨットでは、ラック・スペースは非常に高価です。技術機器に必要以上のスペースを割きたい人は誰もいません」と彼は語りました。

劇場や大規模な施設でも、そのメリットは同様に明らかです。放熱が小さいため、HVAC の需要が減り、改修が簡素化され、総所有コストも削減されます。

Amadeus Acoustics in Vienna theater
図2:オーストリアのウィーン劇場のAmadeus Acoustics

これらのアンプは現在、豪華ヨットに搭載したハイエンド・システムや、世界中のプロフェッショナルな商用オーディオ・ビジュアル設備に電力を供給しています。

同社のMicro Maxxシリーズは最近、PoEおよび主電源駆動バージョンの両方で発売され、同じGaNベース・アンプのコアを使っていますが、より広範でコストに敏感な市場をターゲットにしています(図2、3)。

信頼性に関する教訓

GaNへの移行は、必ずしも簡単なものではありませんでした。初期の信頼性問題が浮上しましたが、デバイスの脆弱性によるものではなく、シリコン・パッケージに慣れたチームには馴染みのないプロセス関連の要因によるものでした。

「最初の数年間は、信頼性がかなり良くなく、それは、完全に私たちの責任でした。ステンシルの設計、はんだペーストの選択、正確なペースト量など、チップスケールのGaNデバイスではすべてが重要です」とBätz氏は語りました。

熱ストレス管理にも新たな考え方が必要でした。これらの要因に対処すると、長期試験では、積極的な過負荷条件下でも優れた耐久性が示されました。

同社の実装ベース、すなわち、これまでのオーディオ・チャネル数の約2万5000では、統計的に意味のある故障率をppm単位で導き出すには、まだ少なすぎるものの、現場の経験では有望視されています。EPCの詳細な信頼性レポートは、この学習プロセスを加速させる上で重要な役割を果たしました。「実際に文書を読んで理解すれば、ほとんどの落とし穴は、すでに説明されています」とBätz氏は付け加えました。

将来の展望

今後、EPC2304などのデバイスは、LLCコンバータやマルチレベルPFCアーキテクチャなど、GaNベースの電源への扉を開きます。

「ここからが本当に面白くなります。GaNは、もはやアンプだけの問題ではなく、電源アーキテクチャ全体に関わってきます」とBätz氏は語りました。

EPCは、Innosonixの将来の計画において、依然として非常に重要な存在です。Bätz氏は、「最新の技術を活用すべきであることは明らかです。それは、私たちのDNAに刻まれています:私たちは新しいことに挑戦することを恐れません」と述べました。

「この連携は、技術だけでなく、文化でも重要で、当社が成長するにつれて、EPCと共に成長していきたいと考えています」とInnosonixのセールス部門ディレクタのRichard Van Nairn氏は述べています。

Innosonixは、エンジニアリングへの好奇心と次世代半導体の革新が合わされたときに、何が起こるかを示しています。彼らは世界で最も高級な船舶用音響システムを開発し、プロオーディオの効率の限界を押し広げています。

プロフェッショナル・オーディオにおいて、GaNは、歪みの度合いを示す数値ではないかもしれません。むしろ、GaNの真の効果は、システムの小型化、発熱が小さいこと、高効率化であり、アンプの設計、構築、使用の方法を徐々に変化させています。

Micro Maxx Series
図3:Micro Maxxシリーズ

参考文献

- EPC Corporation. オーディオ用GaN. https://epc-co.com/epc/applications/gan-for-audio

- Innosonix GmbH. (2020). Pioneering GaN Amplifier Technology Since 2020. https://www.innosonix.de/blog/pioneering-gan-technology-advancements-since-2020

- Next generation Audio Amplifiers with EPC GaN FETs, Tiziano Morganti

- GaN Power Devices for Efficient Power Conversion, Fourth Edition - by Alex LidowMichael de RooijJohn Glaser, Alejandro Pozo Arribas, Shengke Zhang, Marco Palma, David Reusch, Johan Strydom.

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