GaNの話シリコンを粉砕するために捧げたブログ
窒化ガリウムのオーディオ・アンプ:オーディオ・パワー・アンプの最新技術

窒化ガリウムのオーディオ・アンプ:オーディオ・パワー・アンプの最新技術

4 13, 2023

従来、オーディオ・ファンは、D級オーディオ・アンプを見下してきました。スイッチング・トランジスタが、最も厳しいファンを満足させるために、十分な開ループ直線性を備えたアンプを構成するために最適化された性能を備えていなかったからです。窒化ガリウムのトランジスタと集積回路の急速な採用によって、設計者は、仕様によるマーケティングに必要なTHD+N(全高調波歪率+雑音)の性能目標を達成し、過渡相互変調歪みを低減して、最適なリスニング体験を目的とした音楽の温かみのある繊細さと音色を実現できるようになりました。

D級システムにおけるシリコンMOSFETトランジスタの限界

シリコンMOSFETは、歴史的にD級システムのスイッチング・トランジスタとして選ばれてきました。これらは、より高効率なアンプを構成できますが、不完全なスイッチング、高いオン抵抗、非常に大きな蓄積電荷による歪みに悩まされており、電力が消費されて、リンギングが発生し(図1)、さらなる音の歪みにつながっていました。

eGaN FETとMOSFETの理想的なスイッチング波形と実際の波形の比較
図1:eGaN FETとMOSFETの理想的なスイッチング波形と実際の波形の比較

シリコンMOSFETには、オーディオ用途の性能に影響を与える可能性のある制限があります。これらの制限には、以下があります:

  • 高いスイッチング損失:MOSFETがオンまたはオフに切り替わるとき、短期間に大量の電力が消費されます。これらのスイッチング損失は、効率の低下と発熱の増加につながります。D級オーディオ・システムでは、スイッチング損失が大きいと、出力電力が小さくなり、システム全体の効率が低下することになります。
  • 制限された帯域幅:シリコンMOSFETのスイッチング特性によって、出力段のスイッチング周波数が制限されます。この制限によって、効率が低下し、出力電力が低下することになります。
  • 熱の制限:シリコンMOSFETは、大出力のD級オーディオ・システムで大量の熱を発生する可能性があります。この制限に対処するために、多くの設計者は、かさばるヒートシンクを使っていますが、これによって、システムのサイズ、重さ、コストが増加します。
  • ゲート駆動の制限:効率的なスイッチングを確保するためには、ゲート駆動電圧を迅速かつ正確に供給する必要があります。D級オーディオ・システムでは、ゲートのオンへの切り替えが遅いという制限によって、効率が低下し、歪みが増加する可能性があります。

パワー・エレクトロニクスの技術者は、窒化ガリウム(GaN)や炭化ケイ素(SiC)などの代替パワー・デバイスを使って、これらの制限を克服しています。これらのデバイスには、スイッチング速度の高速化、帯域幅の拡大、熱特性の向上などの利点があります。

窒化ガリウム(GaN)技術とは何ですか?

窒化ガリウム(GaN)は、ワイド・バンドギャップ半導体であり、ほんの数例を挙げると、DC-DC変換AC/DC変換モーター駆動オーディオ・アンプなどの従来の電力変換用途において、シリコンに代わる能力を実証しています。GaNベースのパワー・デバイスは、より高いブレークダウン強度、より速いスイッチング速度、より高い熱伝導率、より低いオン抵抗によって、シリコン・ベースのデバイスよりも大幅に優れた性能を発揮します

窒化ガリウムのオーディオ・アンプの利点を理解する

GaN FETとICには、従来のシリコンMOSFETと比べて、いくつかの利点があるため、高品質で低コストのD級オーディオ・アンプでの利用に適しています。これらの利点には、次のようなものがあります:

  • より高速なスイッチング:GaNは、電子移動度がシリコンよりも高いので、従来のシリコンMOSFETよりも高速なスイッチングが可能です。この機能によって、スイッチング損失が低減され、全体的な効率が向上します。スイッチング周波数が高くなると、出力波形の制御がより正確になり、歪みが小さくなり、忠実度が高くなり、帯域幅が広くなり、過渡応答が向上します。
  • 低いオン抵抗:GaNは、シリコンよりも広いバンドギャップを持っています;したがって、GaN FETは、従来のシリコンMOSFETと比べて、オン抵抗が大幅に低く、導通損失が小さくなるため、電力損失が低減され、出力電力をより大きくできます。これによって、必要な冷却が軽減され、より小さな形状で構築できる高効率なアンプが得られます。
  • 部品点数の削減:GaNのスイッチング周波数が高いため、従来のシリコン設計よりも、必要な外付け部品が少なく、安価になり、アンプの設計が簡素化され、全体のコストを削減できます。
  • 低歪み:GaN FETは、寄生の容量とインダクタンスが小さいため、歪みが低減され、全体的な忠実度が向上します。
  • より小型の形状:GaNデバイスは、性能の仕様が同じシリコン・デバイスよりも小さくすることができます。GaNのこの利点によって、より小型なアンプ設計が可能になります。

全体として、GaNデバイスは、オーディオ・アンプ、特に大出力と高忠実度を必要とする用途において、シリコン・デバイスよりも優れた性能、優れた効率、高い忠実度を提供します。

オーディオ・パワー・アンプにおけるGaNの用途

GaN FETとICは、高性能、高効率、大出力を必要とするオーディオ用途に最適です。GaN技術が特に効果的なオーディオ用途には、以下があります:

  • スタンドアロンのオーディオ・アンプ:GaNは、スイッチング速度が速く、オン抵抗が小さく、降伏電圧が高いため、D級オーディオ・アンプに理想的です。これらの特性によって、優れた効率と歪みの低減に加え、大出力、高忠実度のアンプの設計が可能になります。
  • アクティブ・ラウド・スピーカ:GaNは、サウンド・バーやワイヤレス・スピーカなどのアクティブ・ラウド・スピーカのパワー段で使え、音質の向上と共に、より小型・軽量、より高効率なシステムの設計が可能になります。
  • 大出力のポータブル・オーディオ・システム:GaNは、ポータブル・オーディオ機器のパワー・マネージメント(電源管理)回路に使え、バッテリー寿命の延長とオーディオ品質の向上を可能にします。
  • プロ用オーディオ・システム:GaNは、コンサートの音響システム、プロ用のオーディオ・ミキシング・コンソール、レコーディング・スタジオ、放送施設など、大出力と高忠実度が要求される高性能プロ用オーディオ・システムに最適です。
  • 車載用オーディオ・システム:GaNは、車載用オーディオ・システムのパワー段で使え、より小さな形状で、より大きな出力電力と効率の向上を可能にします。

オーディオ技術の企業は、製品にGaN技術をどのように活用しているか

オーディオ会社の中には現在、自社のアンプにGaN技術を使っている会社があります。以下に、いくつかの例を示します:

  • パナソニックは、GaNベースのオーディオ・アンプ技術を開発し、ハイエンドのオーディオ・ファン向けのテクニクス・ブランドの再導入時にそれを使いました。この技術は、カー・オーディオ・システム、ホーム・シアター・システム、ポータブルBluetoothスピーカなど、さまざまなオーディオ製品に利用可能です。
  • 独イノソニックスは、ハイエンドのMaxxシリーズのマルチチャネル・パワー・アンプで、従来のシリコンFETをGaN FETに置き換え、静止時の損失を35%削減し、全電力効率を5%向上させました。GaNのきれいなスイッチング波形によって、ほぼ完璧なスイッチング電圧が得られるため、直線性が向上します。これによって、高調波歪みが約6dB減少し、オーディオ品質が聞いて分かるほど向上しました。
  • カナダのSyngは高忠実度のワイヤレス・スピーカの電源設計に、GaN FETを採用しています。この電源設計はGaNを使って最適化しており、最小の放熱で、狭いスペースの中で最適な特性を実現します。GaN設計によって、ヒートシンクやファンによる冷却が不要になり、より小型で洗練された設計を実現できました。

窒化ガリウム・オーディオ・アンプの未来

オーディオ・アンプ業界におけるGaNの未来は非常に有望です。GaN技術は進化し続けるため、従来のシリコンMOSFET技術に比べて多くの利点があり、オーディオ・アンプで、より広く使われるようになると予想されます。

GaNがオーディオ・アンプ業界に大きく広まると予想される重要な分野には、次のようなものがあります:

  • 高い電力密度:GaN技術によって、より小さな形状で、より大きな電力出力が可能になり、プロ用音響システムやカー・オーディオなどの大出力のオーディオ用途に最適です。
  • 高い効率:GaNベースのアンプは、従来のシリコンMOSFETベースのアンプよりも高い効率を実現します。GaNベースのアンプが、より小さな放熱で、同じ大きさの電力を供給できることになります。これは、ポータブルや車載のオーディオ・システムにとって特に重要です。
  • オーディオ品質の向上:GaNベースのアンプは、従来のアンプよりも歪みと雑音が小さくなります。これは、オーディオ信号が、より忠実に増幅され、オーディオ品質が向上することを意味します。
  • サイズと重さの削減:GaNベースのアンプは、従来のアンプよりも必要な部品点数が少ないため、アンプの設計が小型かつ軽量になります。
  • コストの削減:GaN技術が成熟し続け、より広く利用可能になるにつれて、GaNベースのアンプのコストが低下し、幅広いオーディオ用途で利用しやすくなると予想されます。

オーディオ技術企業がGaNベースのアンプの可能性を探求し続けるにつれて、将来的には、この技術を組み込んだより革新的なオーディオ製品が登場することが期待されます。

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