From Data Centers to Robotics: The Expanding Domain of GaN Power Electronics
GaNの話 – Maurizio Di Paolo Emilio
5 12, 2026
Maurizio Di Paolo Emilio 著
この記事の全文は、もともと英 EPDT 誌に掲載されました。
パワー・エレクトロニクスの歴史は、材料の限界、アーキテクチャの変革、新たな半導体プラットフォームの登場による期待値の再設定という予測可能なテンポで展開されてきました。そして今日、その変革が再び起こっています。今回は、窒化ガリウム(GaN)がその中心です。
YouTube の Te chSimplified TV の半導体ポッドキャストの 最近の インタビューで、Efficient Power Conversion(EPC)の CEO(最高経営責任者)で共同創立者であり、HEXFET パワー MOSFET の共同発明者でもある Alex Lidow(アレックス・リドウ)は、GaN が高効率な電力変換の未来をどのように変革していくかについて、貴重な長期的な見通しを示しました。そのメッセージは、明確かつ簡潔でした:
「シリコンは限界に近づいており、そのとき、何か新しいものが必要になります。それが窒化ガリウムです」。
このメッセージは、技術的な現実であるだけでなく、AI (人工知能) インフラ、ロボット、衛星、民生用の急速充電、新たな電動プラットフォームなどで見られる戦略的な転換でもあります。
窒化ガリウムがルールを変える理由
GaN の利点は、原子レベルから始まります。シリコンと比べて、ガリウムと窒素の化学結合がより強いため、バンドギャップが広く、より高い電界に耐え、高速なスイッチング動作を可能にします。
「化学結合がより強いため、窒化ガリウムは、より高い電界に耐えることができます。つまり、電力部品を、より小型化、高速化、高効率化できるということです」と Lidow は説明しています。
シリコン・デバイスとは異なり、GaN の高電子移動度トランジスタ(HEMT)は、AlGaN/GaN 界面に形成される 2 次元電子ガス(2DEG)を利用します。これによって、信頼性を犠牲にすることなく、優れたキャリア移動度とスイッチング特性を可能にします。
この結果、高周波・高密度の電力変換アーキテクチャに特に適した材料プラットフォームが実現しました ーー これはまさに、現代のコンピューティング、ロボット、電子化のエコシステムが必要としているものです。
EPC の GaN デバイスは、標準的な半導体製造インフラを使ってシリコン基板上に形成できるため、ワイド・バンドギャップ性能と拡張可能な製造コストを両立させることができます。これによって、技術者は、シリコン MOSFET の限界をはるかに超えるスイッチング周波数を実現できると同時に、システム・サイズ、磁気部品の体積、熱応力、コストを同時に削減することができます。
シリコン MOSFET の支配から GaN への移行
シリコンのパワー MOSFET は、約 50 年にわたって電力変換の主流となっていました。ただし、高密度用途では、その拡張の限界が、ますます顕著になってきています。
「窒化ガリウムは、あらゆる性能面において、導電能力に関して、シリコン・デバイスよりも優れていることが証明されています」と Lidow は語っています。
とはいえ、半導体インフラの変革は、一夜にして起こるものではありません。むしろ、アプリケーション主導の普及の波に乗って進んでいきます。歴史的に見ると、バイポーラ・トランジスタは、MOSFET が技術的に優位になった後も長く存続しました。GaN が従来のプラットフォームではなく、新しいシステム・アーキテクチャ全体で、シリコンを徐々に置き換えていくにつれて、同様のパターンが再び起こりそうです。
この変化は、すでに以下の点で確認できます:
- AI 電力分配網
- ドローン
- 自動車、サーバー、ロボットにおける 48 V システム
- ロボット用モーターやアクチュエータ
- 衛星の電子機器
48 V ノード:戦略的な転換点
GaN の普及を加速させる最も重要な要因の一つは、48 V アーキテクチャへの移行です。当初は、ハイパースケール・コンピューティングや通信インフラによって推進された 48 V の中間バスは、現在ではロボット、自動車のサブシステム、ドローン、電動自転車、電動工具にも広がりつつあります。
Lidow は、「48 V の電圧を扱うなら、GaN に勝るものはまったくない」と強調しました。
この電圧領域は、GaN の横型デバイス構造が、シリコン MOSFET や炭化ケイ素の代替品を上回る性能を発揮する最適な領域を表しています。
EPC は、この電圧領域向けに戦略的に最適化した複数の GaN デバイスの世代を開発しました。EPC23XX ファミリーなどのデバイスは、極めて低いスイッチング損失と高周波動作を可能にし、受動部品のサイズを大幅に縮小できます。
この機能は、基板スペースと熱管理の制約が厳しくなりつつある AI サーバーにおける次世代電力供給ネットワークを直接的にサポートします。同時に、同じアーキテクチャは、小型で高効率なモーター制御段を必要とする新たに出てきたロボット駆動プラットフォームにもメリットをもたらします。
EPC のリファレンス・デザインは、この意思決定プロセスを、非常に具体的なエンジニアリング指標に基づいて構築しています。EPC9159 は、48 V 入力、12 V 出力段で動作し、約 98%のピーク効率を実現すると同時に、電力密度を高めています。これは、EPC にとって、単なるアーキテクチャの回路図の理論的な議論ではなく、具体的な基板レベルのソリューション、具体的な電力定格、具体的な効率範囲に関わる実際的な問題であることを示しています。
48 V において、GaN は、シリコン MOSFET と単に競合するだけでなく、分散型パワー・システムにおいて、これまで非現実的と考えられていたまったく新しいコンバータ密度の目標を実現可能にします。

図 1:トランス・モジュール EPC9159KIT、大きさは 22.8×17.5×9 mm
キラー・アプリケーションの原則
革新的な半導体技術には常に、従来のデバイスでは効果的に実装できない画期的な応用例が不可欠です。GaN の場合、最初の生産量の拡大の原動力となったのは Lidar(光による検出と距離の測定)でした。
「GaN なしでは、Lidar は作れなませんでした。非常に大きな電流を極めて高速に切り替える能力が不可欠でした」と Lidow は説明しています。
この機能によって、自律型プラットフォームや産業用知覚システムに不可欠な高解像度センシング・システムが実現しました。Lidar は、シリコンでは到底実現できない性能を GaN が実証した最初の応用分野の一つです。高解像度の飛行時間(time-of-flight)センシングには、極めて高速な電流パルスと精密なタイミング制御、そして最小限のスイッチング損失が必要であり、これらは横型 GaN デバイスに理想的な条件です。
一例として、EPC2051 は、自動車や産業用 Lidar のプラットフォーム向けのパルス・レーザー・ドライバなど、超高速スイッチング環境向けに最適化した高性能エンハンスメント・モード GaN FET です。このクラスのデバイスは、非常に低い寄生容量で非常に高い di/dt 遷移をサポートしており、シリコン・ベースのソリューションと比べて、検出範囲の拡大、空間分解能の向上、および、より小型なドライバ・アーキテクチャを実現できます。
EPC の GaN 技術は、ナノ秒のスイッチング動作が可能なので、設計者は、パルス歪みを低減し、システム効率を向上させることができます ーー これら 2 つの要素は、より長い検出距離と、厳しい環境条件下でのより優れた物体識別能力に直接つながります。
Lidar が自動運転車からロボットの知覚、産業安全システム、高精度マッピングの各プラットフォームへと展開していく中で、EPC2051 のようなデバイスは、GaN が今日の光センシング・アーキテクチャを実現するスイッチング技術となった理由を示し続けています。

図 2: EPC9091:100 V、5 A のハーフブリッジ開発基板。開発基板 EPC9091 は、面積が 2 インチ×2 インチ(1 インチは 2.54 cm)で、台湾 uPI Semiconductor のゲート・ドライバ uP1966E を使ったハーフブリッジ構成の 2 個の EPC2051(eGaN FET)を搭載しています。
宇宙用途:差異化要因としての放射線耐性
放射線被ばくは、特に長期ミッションや深宇宙プラットフォームにおいて、衛星電源アーキテクチャの主な信頼性制約要因であり続けています。Alex Lidow によれば、GaN の利点は材料レベルから始まります:
「窒化ガリウムは、シリコンよりも桁違いに優れた放射線耐性があります」。
従来のシリコン MOSFET とは異なり、GaN デバイスは、電離放射線下で電荷を捕捉する薄いゲート酸化膜に依存していません。これによって、軌道上でのスイッチング安定性に影響を与える主な劣化メカニズムの一つが排除されます。
同様に重要な点として、GaN は、地球の大気圏外で遭遇するさまざまな種類の放射線に対して、高い耐性を示します。
「窒化ガリウムは、高エネルギー電子の影響を受けず、陽子線の照射に対してもシリコンよりはるかに高い耐性を示します。さらに、ガリウムと窒素の間の化学結合は、シリコン結晶内の結合よりも強固なので、重イオンによる影響もはるかに小さく抑えられます。
質量、効率、信頼性がミッションの経済性に直結する現代の複数の衛星を連携させる用途において、高周波 GaN スイッチングは、磁気部品の小型化やパワー・モジュールの軽量化も可能にします。
これらを総合すると、耐放射線性と電力密度の 利点こそが、 GaN が 宇宙 品質の 電源アーキテクチャの主流へと急速に移行しつつある理由です。
AI インフラ:新たなスケーリングの原動力
AI(人工知能)インフラは、パワー・エレクトロニクスにおける窒化ガリウム(GaN)の採用を強力に加速させる最大の要因となりつつあります。GPU の世代交代に伴って、演算密度が高まっているので、制約要因は、もはやプロセッサ内部のトランジスタの微細化ではなく、プロセッサ外部への電力供給です。
現代のアクセラレータ・プラットフォームは、基板面積の縮小によって、より高い電流レベルを要求します。このような状況下では、スイッチング周波数と効率は、徐々に改善するのではなく、システム・レベルの実現要因となります。
Lidow が説明するように:
「電力要求は膨大です。電力密度への要求は、さらに困難なものです」。
従来のシリコン MOSFET ソリューションでは、最先端プロセッサの近くで動作する小型のマルチフェーズ電圧レギュレータ・モジュール(VRM:voltage regulator module)に求められるスイッチング速度を維持することが困難です。対照的に GaN は、MHz クラスのスイッチング動作を可能にし、受動部品の小型化や、急激に変動する AI 作業量下での過渡応答特性の向上を実現します。
この変化は、ハイパースケール・サーバーのアーキテクチャ全体ですでに見て取れます。
「もしかするとシリコンで実現できるかもしれないという段階から、今や、誰もがその実現方法を思いつかないという段階へと変わってしまいました」。
AI ラックの電力需要が増大し続けているので、GaN は単なる性能向上にとどまらず、次世代データセンターの電力供給網に不可欠なプラットフォームとして台頭しています。
ハイパースケール・サーバーや AI サーバーが、直流 800 V の電力分配アーキテクチャへと移行しているので、小型で高効率な絶縁型コンバータへの需要が高まっています。GaN(窒化ガリウム)ベースの最新のソリューションでは、カスケード入力/直列入力・並列出力(ISOP)アーキテクチャを活用することで、800 V(または±400 V)から 50 V、12 V、6 V といった低電圧レールへの変換を、高密度かつ拡張性のある形で実現できることが示されています。このシステムは、MHz クラスのスイッチング動作と数キロワットの出力が可能です。800 V 入力、12 V 出力への設計では、1 次側に EPC2305(150 V の GaN デバイス)、2 次側に EPC2366(840 µΩ の GaN デバイス)を使っています。いずれも小型の QFN パッケージに収めました。このリファレンス・デザインは、ピーク効率 98%超、実装面積 5000 mm² 以下、厚さは、わずか 8 mm です。

図 3:EPC91123:800 V 入力、12.5 V 出力の 6 kW 絶縁型 GaN コンバータの評価基板
ロボット:小型なパワーがモーター・インテリジェンスを可能に
ロボットは、窒化ガリウム(GaN)技術にとって、構造的に最も重要な長期的成長の牽引力の一つです。据え置き型のインフラ・プラットフォームとは異なり、移動型ロボット・システムには、重さ、体積、エネルギー効率に関して厳しい制約が課されます。
人型ロボット内部の各アクチュエータ(モーター駆動部など)には、局所的な電力変換段が組み込まれており、数 10 もの関節にわたるその総合的な影響が、システムの自律性を左右する要因となります。
Alex Lidow が指摘したように:
「人型ロボットには、約 40 個のアクチュエータが搭載されていますが、GaN デバイスを活用すれば、それらのアクチュエータの効率を高めるだけでなく、体積を約 1/10 に小さくすることができます」。
この小型化は、段階的な改善ではありません。バッテリー寿命、熱管理、機械的統合の方策に直接的な影響を及ぼします。同様のアーキテクチャの利点は、手術用ロボットや高度な義肢プラットフォームにも拡張できます。これらの分野では、モーター駆動用電子回路の小型化が、動作の精度や応答性を向上します。
ロボットのプラットフォームが、より高度な器用さと長時間の稼働サイクルへと進化すると、効率性と小型化を同時に両立できるスイッチング技術(GaN など)は、アクチュエータ設計において、選択肢の一つではなく、不可欠な基盤技術となりつつあります。

図 4:人型ロボット向けのモーター制御ソリューション
炭化ケイ素(SiC)と GaN:競合ではなく、相互補完的な関係
パワー・エレクトロニクスに変革をもたらしているワイド・バンドギャップ半導体は、窒化ガリウムだけではありません。炭化ケイ素も同様の普及の軌跡をたどっていますが、より高い電圧領域で採用されています。
Lidow が総括したように、「約 650 V を超えると、炭化ケイ素(SiC)の方が優れたソリューションとなります」。
この違いは、両材料の構造的な差異を示しています。窒化ガリウム(GaN)・デバイスは一般的に、横型構造なので、650 V 以下のアーキテクチャにおいて高い効率が得られます。一方、炭化ケイ素は、トラクション(駆動力の制御)・インバータや高電圧変換システムに適した縦型の導通構造により適しています。
これら 2 つの技術は、直接競合するのではなく、電子化されたインフラ全体において、互いに補完し合う動作領域を明確に分けつつあります。
GaN は、中間バス・アーキテクチャ、ロボット・プラットフォーム、AI 向け電力供給網において、小型で高速なスイッチング段を実現可能にしています。
対照的に、高出力の自動車用トラクション・システムや電力網レベルの変換装置では、IGBT に代わって炭化ケイ素(SiC)の採用が拡大しています。
これらを組み合わせたものが、次世代のワイド・バンドギャップのパワー・エレクトロニクスの基盤となります。
イーモビリティ
窒化ガリウム(GaN)と炭化ケイ素(SiC)は、いずれもイーモビリティにおいて、重要ですが、異なる役割を担うことになります。近年の EV(電気自動車)では、かつてはエンジンからのベルト駆動などで機械的に動かされていたエアコンのコンプレッサやポンプ、その他の補助機器といった補助負荷の数が増加しています。現在、こうした機能の電動化が進んでおり、最新の電動プラットフォームでは 48 V バスへの標準化が拡大しています。
Lidow は、「まさに 48 V 領域こそ、GaN が真価を発揮する場所です」と述べています。EPC は、GaN デバイスを特に 48 V 用途に最適化しており、48 V のパワー段において、効率、電力密度、大きさに対して GaN に勝るものはないと主張しています。つまり、EV の高電圧トラクション駆動では SiC が主流となり、48 V の補助機器や電力変換サブシステムにおいては、GaN がシェアを拡大していくことになるでしょう。
残されたボトルネック:磁気部品
次世代の電力変換において、最も重要な制約の一つとなっているのは、もはや半導体そのものではなく、その周辺にある受動部品です。
スイッチング周波数が、数 100 kHz から MHz 領域へと移行するにつれて、従来の磁気部品がコンバータの小型化における制約要因となりつつあります。Lidow が指摘したように:
「磁気部品は、数 100 kHz での動作に対して設計されてきました。GaN(窒化ガリウム)の活用においては、MHz 帯への移行が求められています」。
スイッチング周波数を高めることで、コイルの小型化、必要な容量の低減、過渡応答の高速化、電力密度の劇的な向上が可能になります。ただし、磁性材料やパッケージング技術の進歩が伴わなければ、システム設計者は、GaN の性能を最大限に引き出すことはできません。
受動部品のエコシステムにとって、これは制約ではなく、大きなイノベーションの機会となります。
GaN の先を見据えて:次世代ワイド・バンドギャップ材料
酸化ガリウム、窒化アルミニウム、ダイヤモンドなど、いくつかの新しい材料が、次世代のワイド・バンドギャップ・プラットフォームの候補として注目を集めています。
その理論上の性能限界は、特に超高電圧用途において優れています。ただし、採用を推進するには、材料の性能だけでは不十分です。製造インフラやシステム・レベルでの適合性が、決定的な要因として残ります。
Lidow が指摘したように、「新しい半導体技術が広く実用化されるためには、依然として、キラー・アプリケーションが必要です」。
現時点において、窒化ガリウム(GaN)は、その理論的限界には程遠いままです。シリコン製造インフラとの高い親和性に加え、AI、ロボット、宇宙システムといった分野での導入拡大が進んでおり、GaN のイノベーションの余地は、まだ大きく広がっています。
次世代の技術者へのメッセージ
技術の転換期は、変化を追いかける技術者ではなく、変化を予見する技術者が貢献します。Lidow は、次のように結論付けました:
「今、人気のある選択肢を選んではいけない。未来を追い求めよう」。
窒化ガリウムは、その可能性を秘めています。ワイド・バンドギャップ電力変換は、AI インフラやロボットから航空宇宙エレクトロニクス、分散型電子化プラットフォームに至るまで、現代のシステムにおけるエネルギー処理を変えつつあります。
今日、この分野に参入する新しい技術者に向けたメッセージは明確です:次なる大きな変革をもたらすのは、徐々に最適化するのではなく、まったく新しいアーキテクチャを可能にする技術の選択です。